第二章「天の神様と土の神様」  ゆう

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私がこのアトリエに来てから、今年で七年になる。大学は、三年前に卒業している。二十五歳になった私は、今年から、塾生ではなくスタッフとして働かせてもらっている。ここを利用する塾生の皆さんは、五十代から七十代ぐらいの方たちだ。いつも私のことを「由紀ちゃん」と呼んでくれる。

「由紀ちゃん、そろそろ帰ってくるんだって? 由紀ちゃんのフィアンセ」

そう言って(げん)さんは、いつも私のことをからかう。権さんは七十代前半だ。

「権さん、フィアンセじゃありません。婚約しているわけではないので。そう茶化さないでください」

と私は声のする方に顔を向けて話した。

「ほれ見ろ、顔が赤くなっているぞ。いやいいね。若いってのは!」

と権さんは懲りずに茶化してくる。「もう!」と私は顔に両手を当てて、隠す。「ははは」と周りから優しい笑い声が聞こえてくる。

アトリエの塾生は、新しく入ってくる人もいるが、何年も通っている人の方が圧倒的に多い。だから、いつも家族のような雰囲気で過ごしやすい。とても居心地のよい職場だ。

塾生が帰ったあとは、このアトリエを自由に使っていいことになっている。まだまだプロフェッショナルには程遠いが、二年前から、陶芸家として個展も開いたりしている。自分にしか作れないモノを目指して、今日も私は、土と向き合う。

「君は、どんなモノに生まれ変わりたいのかな?」

私はいつも土と対話をする。だって、土にも性格があるから。その性格を理解してあげないと、拗ねて上手く成形できない。私は両手で土の感触を確かめていた。目が見えない分、人よりも土の声がよく聞こえるような気がする。すると、シトラスの香りが風に運ばれて私の鼻をくすぐった──。

「この日にしよう」と決めていた。由紀と出逢って七年目の今日。ジャケットの左ポケットに忍ばせた小さな箱。ろくろの前に座る由紀の後ろ姿に、胸の高鳴りが止まらない。自分を落ち着かせるように、一歩一歩、彼女の元へと──。