12月8日

あと20.3キロメートル歩けば、サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着する。まだ街に明かりがともっているころに出発した。今までこんなに歩いていたかというくらい大勢の人が目的地に向かって歩いている。いろいろな道がここで合流しているのかもしれない。私の歩みがのろいのか、みんなどんどん先に行ってしまった。のんびり歩いたって今日中には着く。

この日も朝方の雨が霧になって、その後だんだん晴れていき、午後また雨になった。この日の雨はそれまでの降り方と違った。土砂降りの一歩手前、到底フードだけではやり過ごせない。100円ショップで買ったポンチョが役に立った。すっぽりと荷物ごとカバーしてくれたのでほとんど濡れずに済んだ。

昼過ぎに雨をやり過ごそうと入ったカフェでまた韓国人のグループに会った。彼らはおそろいの紺のポンチョを着ていた。多分ガイド付きのツアーなのだろう。

大聖堂が近づくにつれ、モニュメントや広場、大きなアルベルゲなど巡礼関連の施設が多くなる。道しるべの上に手作りの可愛い花束が乗せてあったり、十字架の下に写真やメモが置いてあったりする。旧市街を見下ろす丘の上から、大聖堂の尖塔が見えた。坂を下り、高速道路を横切って新市街へ入る。もうすぐだ。

今までほとんど一緒に歩いている人はいなかったのに、この日の人の多さはどうしたのだろう。旧市街に入る信号の手前は混雑していると言っていいくらいだ。坂を上がって、小さな教会を左手に見て、渡り廊下を階段でくぐるとそこは、大聖堂前のオブラドイロ広場だ。着いた。正面に高い塔を持ったサンティアゴ・デ・コンポステーラだ。

正直に言おう。そのとき思ったほどの感動はわかなかった。広場にはうずくまって涙を流す人、抱き合って喜ぶ人の姿があった。多分私はキリスト教徒ではないからだ。多分私は100キロメートルくらいしか歩いてないからだ。多分私は歩きながら人生をあまり考えなかったからだ。多分それらの理由すべてなのだろう。

景色は素晴らしかった。途中の建物もとても雰囲気があった。丸い橋もぽつんと立つ教会もまっすぐに続く一本道も、日本では見ることはできないだろう。まだまだ歩いていたいような気もする。それくらい楽しかった。しかし、着いたという実感、やり遂げたという満足感はなかった。

夜のライトアップされた大聖堂もとてもきれいだった。