「君が今新党を立ち上げてやろうとしている事は、機能不全に陥っている政治を若者やこの国の主権者の為に政治のダイナミズムを取り戻そうという崇高な戦いだ、政治的には幕末の明治維新にも匹敵する政治改革だ、その大いなるロマンを感じる戦いに勝つためには、当然軍資金が必要だろう? 私がもう一五歳若ければ君と一緒になってそのロマンのある戦いに参戦するんだが、八〇歳を超えてしまっていては無理だ、だからせめて同志という事でカンパだけでもさせて欲しいんだ、頼むお願いだ」
と言って頭を下げた。二人の間に暫く沈黙が続いた後、痺れを切らした山脇が、
「昔、酒を飲みながら君に話したと思うが、私は悪政に苦しむ民百姓を救わんと桜田門外で大老井伊直弼を襲った水戸藩の武士の末裔だ……。今風に言ったならテロリストと言われるかもしれないが、私の中ではテロリストというよりは、キューバの革命家ゲ〇ラのように思って昇華しているがね。そんな訳で私の願いを聞き入れて貰えんだろうか? それこそ私の『冥土の土産』だと思って……」
と山脇が破壊力抜群の冥土の土産を持ち出した。その為武藤もあっさりと、
「……そういう事でしたなら、有難く使わせて頂く事にします」
と武藤は小声で言った。そして武藤は、その場で借用書を書き、山脇の八千万円を武藤の個人的借財として、
「ある時払いの催促なし……という事で宜しくお願いします」
と武藤らしく言って武藤の一存でいつでも使えるよう処理した。その後の雑談では、
「それよりリースバック契約は六〇歳をすぎてローンが組めなくなった人が使える個人向け資金調達法で私が亡くなったなら即、私の不動産をリースバック会社が貸物件に転用して貸し付けるか、或いは売却して資金を回収するんだそうだ。私の住宅のある西船橋は地下鉄線とJR線それと東葉高速鉄道と鉄道が三社乗り入れている為、利便性の良さに人気があり、バブルの頃は二億円の評価額が付いた事があった。私としては自分の目の黒いうちに八千万円という生きたお金に変える事ができるなら本望だ」
とリースバック契約を説明してくれた。
こんな和やかな感じで雑談していた山脇の顔が一瞬険しい表情になり武藤に質してきた。
「党として立候補者に公認料をいくら払う心算なんだ? 本人は不満に思うだろうが仮に五〇万円でも一〇〇人を公認すれば五、〇〇〇万円だ、一〇〇万円の公認料なら公認料の合計だけで一億円だ、既に君は私財を一億五千万円も投じている。そこまでして政党を立ち上げようとする君の本心を改めて聞かせては貰えないだろうか?」と武藤の本心を改めて問うてきた。