スーツケースはどこだ
シカゴで二泊したのち、いよいよナイアガラ見学のためバッファローへ向かう。バスが空港に到着すると、学生たちは自分のスーツケースを見つけて空港内の搭乗カウンターに移動していった。そろそろ終わりだなと思っていたとき、一人の男子学生が不安げな顔をして近づいてきた。
「あのう、僕のスーツケースがありません」
「えっ、でも乗るときに確認したでしょ」
「いえ、実は、絶対にあると思って確認せずに乗ったのです」
「何ですって」
真知子は急いでバスに戻った。運転手がトランクを閉じるところだった。
「すみません。スーツケース一つ残っていませんでしたか」
息をハーハーさせながら真知子が尋ねるとドライバーは、
「残ってないよ。ほら、自分で確認してみたらいいよ」
確かに中は空っぽである。ということは、ホテルで積んでないことになる。出発時トランクの前に並んでいたスーツケースは全部入れたのを確認したから間違いないはずなんだけど。部屋から降ろし忘れたのかな。
頭の中で出発前の状況を順に振り返るがどこでなくなったか分からない。顔から冷や汗がツーっと頬を流れるのが分かったが、拭いている余裕はなかった。
落ち着いてもう一度最初から考えよう。本人はあると思って確認せずバスに乗ったと言っていた。私は全部載せるのを見た。でもそのときスーツケースの数を確認したか、そうだ本人たちが自分のスーツケースを確認しているから大丈夫だと思いダブルチェックはしていなかった。
自分のミスだ。基本が抜けている。スーツケースが残ってないのを確認すると、その足で支店長の松井のところに報告に行った。松井はカウンターで搭乗手続きを始めていた。
「支店長、すみません。伊藤さんのスーツケースがありません」
「何だって。乗る前に確認していなかったのか。君は、最後にスーツケースの数を数えましたか」
「いえ、本人が確認しているので大丈夫だと思ったもので」
「添乗員は、本人の確認のあともきちんとスーツケースの数を数えるのが当然でしょう。仕方がない。本人の名前、部屋番号、スーツケースのメーカー名や色を確認したらすぐホテルに電話して、スーツケースが残ってないか確認しなさい」
「はい、分かりました」