空間については、まだしも矛盾を矛盾として理解してもらえる余地がある。時間については、矛盾をまずはパラドックスという形で人は理解してしまう。そしてパラドックスとは、いずれ解ける形式的な矛盾に過ぎないという意味だ。恐らくタイムパラドックスの解決が相対論を語るうえでの最重要トピックということになるだろう。
これは、理論を理解しようとする人、批判する人ともに、そういう気持ちがあるはずだ。そこにこの理論の謎めいた核心があるのだから。そこは第2部に譲り、初めのほうにそれにとりかかるためのいくつかの章を置いた。私にはこの順番が理解しやすく、説得力も増すと思えた。
しかし、自分で書いておいて何だが、興味をひかれそうにない部分もあるかもしれない。飛ばしながら読むという選択もありかと思う。
1 沈みこむというイメージ
前置きの部分で重力のことに少し触れたので、その続きから始めよう。私も人並みの好奇心から、SF的興味で相対論の作る世界観を楽しく眺め、宇宙ってなんて不思議な場所なのだろうと讃嘆していたわけだが、最初のころからある1つのことが引っかかったままであった。それは多くの人が必ずどこかで見かけたであろう、重力のイメージ図だ。
1枚の架空の方眼紙が、中央に乗った天体の重みで擂鉢状にくぼむ、という形をしている。もちろんこれは空間の曲がりを表現しており、小さい天体をここに放り込んでやるとアリーナ状の斜面を滑り落ちて中央の大きな天体に吸い寄せられて行くところまで想像できてしまう。それで空間の歪みによる重力がどういうものかを説明したことになると言う。
私が初心者向けの科学書に親しんだのは遠い過去の話なので、知見として古いと思っていたが、最近の本を見ても相変わらず同様のたとえ話に頼っているようだ。たとえばBrian Greeneの“The Hidden Reality”。この本にはGPS信号が相対論に基づく計算で運用されているという、さすがに現在では完全にデマと判明している情報まで盛り込まれている。