隣にはかすかに先生の匂いがしていた。
それからときどき図書室で一緒になると、二人だけで他愛のないことを話して過ごした。しかしそれも先生が副担任から外れると同時にほとんど話すことはなくなっていった。単に会う機会がないからだけではなかったように修作は思う。先生のほうに変化があったからだろう。
修作は相変わらず図書室に入りびたっていたのだから。
校内で出くわしても何となくよそよそしいように二人はすれちがっていった。
もう修作が危険な時期(自殺するかもしれない)を通り越したと思って離れていったのだろうか、といったことを考えたりした。
しかし相変わらず昼の弁当は美術室で一人で食べていたし、親友はひとりもいなかった。図書室にいればまた先生が声をかけてきてくれるのではないかと、いつも心密かに願ったけれど、それはかなわなかった。
とはいえ、暗く沈んだ高校生活を先生は救ってくれたんだ、と修作には思える。
思いかえすたびに、もうあれから何十年もの月日が過ぎてしまったことが不思議でならない。
時間が止まったまま、ずっとそこに今もいるような気持ちになる。
あれから、いろんなことがあったはずなのに、おそらく先生にも。
けれど、あの日の図書室の光景のなかに二人して隣り合い話した他愛ないひとときが、生き生きと目の前に蘇る。
修作は、あの頃、なんでもなかったはずの時が今は愛おしい思いで、アトリエから水面の上を流れる気流に重ね映している。