第一部 銀の画鋲
「カトリーヌの謎の言葉」
ここで、カトリーヌの話を少しだけしようと思う。コランとクロエが来た翌日も、そしてその翌日も次の日もカトリーヌは本屋に来た。二本のミルクの瓶はトリトマラズの木の根っこから緑の扉の床の上を経て、ワルツさんの机の上を飛び越え、今や奥のキッチンの小さなキャビネットに納まった。
昨日はミルクをしまうと、レッドカーペットの真ん中に寝そべっている僕をカトリーヌは森に誘った。でもピクリと耳を動かしただけで僕は無視した。今は一日の中で、僕が一番大切にしている昼寝の時間なのだから。それに少しずつだけど、僕に媚びてないか、カトリーヌ、そんなの君には似合わないと思う。
「あっ、いけないっ。牧師さんだ」
窓から外を見ていたカトリーヌが小さく叫んだ。空には灰色の雲が一面に垂れていて、バラ色の光がひと筋も見えない日だった。
「どうしよう。なんでここに来るんだ」
「昨日、わしは教会に行ったが、牧師さんから今日ここに来るとは聞いていないが。カトリーヌ、何もおどおどすることはないだろ」
カトリーヌは牧師さんが校長を務める慈善学校の下働きをしている。カトリーヌの死んだお母さんのあとを引き継いでのことだそうだ。これは、ワルツさんから聞いたことだけどね。
「いやだ。ここに来てること、牧師さんには言ってないんだ」
何だか風向きが怪しいぞ。カトリーヌったらソワソワして床をとんとん踏み鳴らしている。
「ワルツさんはご在宅ですか」
扉を開けて牧師さんは帽子を脱いだ。丸顔で色白で善良そうな顔をしているが、僕はこの人のことを好きじゃない。僕に会うと肩をすくめて目を背ける。この人は猫嫌いだ。それに気が小さいくせに抜け目のない感じもする。何度会っても好きになれない。ワルツさんと日曜のミサに行ったことがあるけど、この人の神様についてのお話なんて、嘘っぱちで聞いてられない。
ワルツさんの身の上話のほうがよっぽど神様を感じることができる。神様は僕たちには無関心だということをね。