5日目 気持ちを分かち合う
老人ホームでの主人公は入居者であることに間違いありません。では、そもそも老人ホームに入居するのがどのような方々なのだろうと、皆さんは考えたことはありますか。
きっと、皆さんは老人ホームの入居者の属性をこのように考えるのではないでしょうか。
「高齢者で病気や身体が不自由なため、ひとりで暮らすことが難しい人」
右記の入居者の属性を分解すると、「高齢者」「病気」「身体が不自由」という側面が挙げられます。
まず、「高齢者」という定義は一体何歳からなのでしょうか。
有料老人ホームの入居者は「概ね65歳以上」、そして後期高齢者というと「原則75歳以上」ということになります。
私が今まで施設長を行ってきた老人ホームでは、65歳から最高年齢は102歳までの入居者の方々を、お世話をさせていただきました。
そうすると、ひとくくりに老人ホームにおける入居者の「高齢者」といっても、実に親子ほどの年齢差のある入居者が一緒に生活していることが分かります。上記の例では何と37歳の年齢差です。
次に、「病気」というと、認知症やら循環器等の疾病を持つ場合もあり、「身体が不自由」というと、骨折し車いすによる生活を送っている場合などが挙げられるでしょう。
このことから分かるのは、老人ホームの入居者といっても、その入居者ひとりひとりの身体的状況をひとくくりにはできず、それこそ「寝たきりの方」から「限りなく自立に近い方」まで、同じ老人ホームで生活を送っているのです。
この中でも、老人ホームで介護サービスを利用する方は、そのサービスを提供する職員との関わりが強めになる傾向にあります。半面、介護サービスをあまり利用しない「比較的お元気な入居者」は、施設側が意識しないと職員との関わりが薄くなってしまう傾向にあるのです。
入居者の清水さん(仮名)は、90代前半の非常に前向きでお元気な女性です。脚がやや不自由なものの、比較的自分の身の回りのことはご自身で行うことができるのです。
こうなると施設側から積極的に関わることがどうしても少なくなりがちです。
私が施設長に着任した当初、清水さんがイライラしていることが多く、施設側に対する不満をよく口にされる方だと他の職員から聞いていました。そこでまずは、清水さんと直接お会いしてお話をしようと思い居室に挨拶に伺いました。それからも概ね1週間に1回、清水さんの居室に伺い、いろいろとお話をしました。
それこそ清水さんの小さい頃の話、茶道の師範をされていた時の話など、清水さんの点ててくださったお茶をいただきながら、耳を傾けました。すると清水さんがイライラされている原因が、お話の中でだんだんと分かってきました。
清水さんは以前、広いご自宅の庭で土いじりをし、庭一面のきれいな花に囲まれた生活を送っていましたが、入居後は居室にいることが多くなってしまったこと。そして、様々な身体的状況の入居者と一緒に生活することによって、自分の気持ちの中に、不安感が出てきたとのことでした。