ザ・バサラ

そんな時、列車のアナウンスで「次は糸魚川」のコールが聞こえた。

新潟に出て一泊して帰る予定であったが、なんとなく降りる気になった。

糸魚川の町は、真冬の寒波をしのぐ雁木の町並みが有名であった。何も見当たらないので汽車に乗ろうと思った。そのとき駅に谷村美術館の案内標識があることに気が付いた。旅行のガイドブックに載っていない。どうやら私設美術館の類らしい。しかし、その展示物は仏像であった。それなら私の研究分野である。時間もあることだし一応覗いてみようと思った。

覗いて見て悠子は、はまってしまったのである。

美術館には中東によく見られるドームの屋根が幾つかあった。そのドームのような屋根は大きさや高さがまちまちである。

なんか不思議な屋根だと思いつつ、雁木廊下を歩いた。そして展示室の入口に立った。

入ると一体の仏像が置かれていた。仏像は正面から側面、裏面とぐるりと鑑賞できるようになっている。仏像の側面から裏面まで鑑賞できるのが特徴であった。

一回りして一体だけしかないのかと、いぶかしい思いが湧いた。そのときになって壁に穴が有ることに気が付いた。そばまで行くと廊下の入口であった。そこに立つと少し向こうに部屋が見えた。

短い廊下を歩いて入ると、その部屋にも一体の仏像が展示してあった。先ほどより小さいなと感じた。そしてこの仏像もぐるりと前、横、後ろが鑑賞できた。

何かが違うと感じられた。

よくよく観察してみると、部屋の大きさが違っていた。部屋が小さく感じた。天井の高さもやや低いように思えた。不思議だと思いつつ一回りした。すると同じように仏像の裏に穴、つまり次の展示室につながる入口となる廊下があり展示室が見えた。そこでそこに向かってみた。

そこにも一体の仏像が置かれていた。いままでより大きな仏像であった。そのぶん部屋も広く天井も高かった。悠子にもようやくこの仕掛けが見えてきた。仏像は一体ごと展示室があり、その仏像の大きさに丁度良い空間が造られている。その仏像を十分に鑑賞すると次の展示室に誘う仕掛けとなっている。平面でいうと、蟻の巣のように造られている。

仏像の数は十体あり、その数のぶんの展示室がある設計であった。その空間によりドーム型の屋根の大きさや高さの違いが表れている。美術館の全体を見てようやく理解ができたのであった。