当時は中学を出てすぐに働くことは、珍しいことではなかった。中学校の同級生に農家の長男でとても成績優秀な友人がいたが、暮らし向きはそれほど悪くなかったにもかかわらず、父親からの「農家の後継ぎに学問は必要ない」の一言で、彼は進学をあきらめた。そんな時代であったのだ。

もちろん私にも高校に行きたいという気持ちはあったが、それは心の奥に封じ込め、家族のために働こうと決めて、社会人としてのスタートを切った。

第二章独身時代、青春を謳歌する―日本復興の熱気の中で

社会の荒波に揉まれて

十五歳、社会人としてのスタート

中学校を卒業すると、私は自宅から通える鏡町の雑貨店で働きはじめた。まだ十五歳であったから、社会人になるという自覚がどれほどあったかわからない。この雑貨店を選んだのは自分自身だった。

戦後になると、中学卒業者は「金の卵」と言われ、集団就職で地方から都会に出ていく者が大勢いたが、まだそれよりも少し前の時代である。十五歳の私には都会に出ていくなどという発想もなく、とにかく中学を出たら働かなければ、とだけ考えた。

貧しかった自分にとって、将来何になりたいというような明確な目標もなく、家族のためにお金を稼がねばならない、そんな思いだけしかなかったような気がする。

中学校の帰りにたまたま友人たちと映画を観に行ったときに、通りがかった店で従業員を募集しているのを見つけた。別の日に自分で足を運んで社長に頼み、働かせてもらえることになった。雑貨店とはいえ、町では大きな店で卸業などもやっていたため、配達やお客への対応などそれなりに仕事は忙しかった。

だが仕事に興味があったわけでなく、私にとっては自宅から通えるというのが、ここを選んだ理由だったように思う。

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