政府に代わって市民が起こす「内部告発訴訟(Qui Tam Action)」

民事訴訟を促して社会問題を解決する制度の一つとして「内部告発訴訟」(Qui Tam Action)があります。内部告発訴訟とは内部告発者(Whistleblower)が政府に代わって起こす訴訟で、その代表的なものが政府への不正請求を取り締まる不正請求防止法(False Claims Act, FCA)に基づくものです。

連邦政府との取引において業者が水増し請求を行ったような場合に適用される法律で、個人が「内部告発訴訟」を起こすことで不正を明らかにし、不当に奪われた資金(法律ではその3倍の請求が可能)を政府が回収できれば、その15~30%を報奨金として受け取ることができるというものです。

米国のこの制度もまた英国のコモン・ローから継承したものですが、独立直後の1778年7月、米国の大陸会議で内部告発者保護法が制定され、米国独自の発展を遂げていきます。

19世紀、米国の南北戦争で横行したのが、使えない武器や腐った食べ物などを供給する軍事物資業者による不正でした。当時のリンカーン大統領が不正請求防止法(FCA)を制定し、「内部告発訴訟」をその中の条項として組み込みました。

第2次世界大戦時は、軍事調達を優先する政府によりFCAは弱体化されますが、1980年代半ば、レーガン政権が国防費の大幅な増加を図ろうとすると、請負業者の不正請求が懸念され再び強化されていきます。その後も、内部告発者の保護が規定されるなど、より制度が機能するように改正されていきました。現在では、防衛産業による軍事物資の不正請求のほか、メディケアやメディケイドなど政府が管掌する医療保険組織への不正請求が増え、その分野の「内部告発訴訟」が急増しています。

日本企業も無関係ではありません。オリンパスの米国子会社、米国オリンパスは、医者へのキックバックで医療保険機関に多大な損害を与えたとしてFCA違反で訴えられ、6億3220万ドル(822億円)を支払って和解しました。社内のコンプライアンス責任者が「内部告発訴訟」を起こして明るみに出た事件で、彼はこれにより5100万ドル(66億円)の報酬を受けたとされております。