「それで、俺にどういう関係があるんですか?」

太郎は老人の顔を不審そうに見た。老人の意図が理解できないでいた。転げ落ちた時の服の汚れや痛みの方が気になっていたし、寒空の下からも逃げたかった。早くアパートに帰り暖房をきかせ、せめて残ったフライドチキンでビールを飲みたいと思っていた。

「そう、焦るでないわ。今言ったわしの話を覚えておけ。明日からお前は人の背後の憑き物が見えるようになる。ただし、自分の背後は見ることはできん。もしわしに会う必要ができたら、今日と同じ時間、この場所に来て待っておれ」

老人は立ち上がると、いつ手にしたのか、古びた焦茶色の木杖の丸まった先で太郎の頭を三度たたいた。

「痛い……」

太郎は思わず声を上げた。

「ふぉふぉふぉ……」

老人は笑いながら石段を登り始めた。太郎はポカーンとして後ろ姿を見ていたが、途中からもやが立ちこめたようになっていた。気がつくと、老人の姿は消えていた。石段の上の方を立ち上がって見たが、それらしき姿は見えなかった。太郎は幻覚を見ていたのだろうかと頭に手を置いたが、たたかれた頭の痛みは現実にある。老人の話も耳に残っている。何が何だか分からなかったが、転げ落ちた事だけは間違いのない事実だ。太郎は鞄とフライドチキンの容器を抱えてアパートに帰った。