「やっぱり水色のドレスにして良かったね」
「やったー!」。
車の中で遥は喜びを爆発させていた。廉がナビで調べた、ホールから三十分ほどの場所にあるスーパー銭湯に向かっていた。これが和枝の言っていた「いいこと」だった。
遥は舞台で湯山昭「『こどもの国』よりワルツ」を弾き、「えっへっへ」とおどけた表情で袖に戻ってきた。一番手の重圧を一歩一歩脱ぎ捨てながら、小走りに。
「さすがに普段通りとまではいかなかったか」
と感じた和枝だったが、小さい体をぎゅっと抱きしめ
「明るいワルツ、寂しいワルツ、元気を取り戻すワルツをちゃんと弾き分けていたよ」
と褒めると、やっと遥に笑顔が戻った。
そして審査結果発表までは四時間近くあるため、何はともあれお湯に浸かって、三人でのんびりしようということになったのだ。土曜日のお昼どき、大広間はなかなかの混みようで三人分の席を取るのもやっとだった。浴衣姿で天ざる蕎麦を食べながら、話はピアノのことになっていた。