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第三章 宿舎での生活
雄太は学生ながら、学生服ではなく、なけなしの背広、一張羅を着るのを常とした。
議員宿舎から議員会館へ向かう定期バスではまさかの書生とは見なされず、議員秘書として見なされていたのであろう。議員秘書も多く宿泊していた。もしかしたら、議員の家族と見なされていたのかも知れない。細かくは詮索されなかった。
宿舎内の玄関受付の奥には事務所がある。外出、帰宅時の鍵の受け渡しも事務所窓口でやり取りされ、何の問題もなく、事務的に処理できた。やはり誠一さんから正式に紹介されていたからであろうか。鍵は部屋番号順にホテルと同様、つるされていた。
雄太は一○一号室に居住していたから、宿舎ではイの一番から始まるスタート部屋だ。
時に国会や、大学へ行く用事がない時は、十二畳ほどの部屋で時の移ろいにぼんやりとして、ただ時が流れるままに任せた。時に寂しく、時には浮き浮きして時を愛でた。時としてカーテンの隙間から眩いばかりの光が差し込み、小鳥のさえずりがかまびすしく聞こえ、寝坊をしてしまったことを知る。
窓を開けると、芝生や色とりどりの木々の先には塀があり、その向こうには道路を隔てて六階建ての白百合学園女子大が聳えている。屋上からは三、四名の女子大生が興味でもあるのか、こちらの部屋をのぞき込んでいるように感じた。
〈議員宿舎にはどういう人たちが住んでいるのだろう?〉と思ってか、お昼休みだろう、雄太と目が合うと手を振ったので雄太もあわてて手を振ってこれに応えた。
議員宿舎もそうだが、急勾配の「二合半坂」を登った白百合学園の隣には九段高校があり、そこからちょっと歩くと坊ちゃん学校の暁星高校があった。校舎の中央に堂々と時計台が聳え、お昼時の十二時ともなると「キンコンカン」といかにも洗練されたアーバンな響きで鐘を鳴らす。