カウンターから戻ると、支店長がやってきた。

「山田さん、バスが来たみたいですよ。順次乗せていきましょうか」

「そうですね。では案内いたします」

「皆さん、空港行きのバスが外に来ていますのでご乗車ください。なお、乗車前にバスの横で自分のスーツケースがあるか確認ください」

全員乗車も終わり、いよいよ空港に出発だ。

「皆さん、改めましておはようございます。今日のバイキングはいかがでしたか」

「とても美味しかった。でも、ちょっと食べすぎたかな」

「わたしも」

皆、にこにこしながら答えてくれる。

「では、これから空港に向かいます。空港に着きましたらチェックインカウンターにご案内しますので、寄り道しないでついて来てくださいね。これからは集団行動ですので、一人が約束を守らないと皆が迷惑します。お互い気をつけるようにしてください。では、空港までゆっくりおくつろぎください」

まだ午前中だというのに気温はすでに30度を上回っている。窓からの強い日差しをよけるため真知子はバッグからサングラスを出してかけた。一瞬視界がセピア色に変わる。これだけで何となく涼しく感じるのだから人間の感覚は不思議だ。

ダラスに来たのは初めてだが、ここは、ケネディ大統領がパレード中に銃撃されたことで一躍有名になった街である。確かテレビで海外からの中継が始まってすぐの事件だったから、連日のようにケネディ暗殺事件が取り上げられ多くの日本人がそのシーンを目の当たりにし衝撃を受けたのを思い出す。

英語が好きでいつかアメリカに行きたいと思っていた真知子にとって、この事件は自由の国といわれるアメリカにもいろんな面があることを考えさせるきっかけになった。このツアーに参加した学生は、ホームステイ中にきっとこの事件のことを聞いたことだろう。

平坦な土地のあちこちに低い建物や灌木が見え隠れする中をバスは空港に向かって走っていく。前方には空港から発着する飛行機の姿が見える。