【前回の記事を読む】気持ちが高ぶって眠れない…添乗員としての長い一日が始まる!

がんばれ、新人添乗員

初めての添乗

「ビービ―」

電話のベルだ。ベッドから起き上がり、受話器を取る。

「はい」

「おはようございます。モーニングコールです。六時です」

「ありがとうございました」

早速起き上がって着替えをし、手早く洗面、化粧を済ませる。七時から朝食だから、六時五十分には食堂前に行っている必要がある。スーツケースに鍵をかけ、部屋の前に出し、名簿、カギなどを持って食堂に向かった。外はすでに明るく、今日も暑くなりそうな気配だ。

レストラン前には、数人が並んで待っていた。一応七時からだったが、中が混んでいないので、予定より早く入ることができた。別の団体が入っているときは、こうはいかない。初日からラッキーだ。

支店長が下りてきた。

「おはようございます。お食事、先にしてください」

「そうですか。では、お先に。終わったら交代しますから」

「あと数人ですから、多分大丈夫です。確認しましたら私も中に入ります」

添乗中はゆっくり食事を楽しむことはできない。食事中も時間を気にしながら絶えず顧客の状況を見ている。まあ、朝のバイキングでは問題はないだろうが。

真知子は昼食が十分食べられなくてもよいように、朝食をしっかり食べることにした。デニッシュ、スクランブルエッグ、ソーセージ、それにサラダとコーヒー。胃が丈夫でないため、コーヒーは薄いアメリカンにした。松井はパンの代わりにシリアルを選んでいる。学生たちの中にはお代わりをしているものもいるようだ。食事が終わったメンバーは早々に部屋に戻って行った。

「私達も一旦部屋に戻りますかね。では九時半にロビーで会いましょう」

「分かりました。では、のちほど」

真知子は部屋に戻り、少し休憩したあと、手荷物をまとめるとエレベーターでロビーへ向かった。しばらく待っていると支店長が下りてきた。

ホテルの玄関を出たところには、朝食中に集められたスーツケースが並べられている。

「すみません、スーツケースは全員の分降ろしてありますか」

「はい大丈夫です」

ボーイはにこやかに答えた。

松井は会計で支払いをしている。といっても現金を払うわけではない。いわゆるバウチャーという小切手みたいなものを渡すだけである。宿泊費以外の電話代などの追加請求がある場合は、別途本人が現金で支払うことになる。

集合時間になると、学生たちが続々と集まってきた。全員分のカギを回収してカウンターへ持って行くと、ボーイが部屋割り一覧と照らし合わせて確認を行い、しばらくすると「はい、大丈夫です。良いご旅行を」とにこやかな笑顔で見送ってくれた。