ザ・バサラ
割烹山野はカウンターと小座敷三つの小さいお店である。料理はおいしく、岐阜の通人には評判がよい。酒も厳選している。それだけに予約が取りにくい人気店となっている。
割烹屋での楽しみは、何を食べるか店の店主とやりとりすることである。その時の塩梅でおまかせの時もあるし、気のおける友人との席はアラカルトにする。館長の考えで今日はアラカルトでいこうと思った。
中川館長と山野の主人との付き合いは十年以上になる。
「山菜は出ているかな」
山野の主人は自信ありげに言った。
「いいのが手に入りました。順番にお出しします」
最初に小さな小鉢、三皿が出た。
「こごみのおひたしです。胡麻と辛子とエゴマ、それぞれ三種で味を付けてあります。風味と香りもご賞味ください」
中川館長は一口入れて思わず「うまい」と声を出していた。
普段食べている山菜とまるで違う。かすかな苦みと歯ごたえが心地よかった。ビールががぜんおいしく感じられた。
「次は何がいいかな」。中川館長は次の料理に期待を込めていった。
山野の主人は館長の顔色を伺いながら言った。
「とりあえず小芋の煮つけをお出しします。それからはおまかせください」
中川館長も山倉教授との話もあっておまかせにすることにした。
「山倉さん、結構いけるでしょう」
「いやーじつにおいしいですね。酒がすすみますね。この小芋は二センチもないくらいですね、粒もそろってやわらかく煮てあります」
見て楽しく、食べて幸せって感じで中川館長もうなずいていた。二人はビールから日本酒の熱燗になっていた。