ザ・バサラ

悠子の仕事は信長に関することである。

悠子は今年で二十八歳になる。独身である。勿論未婚である。

職場は金華山麓にある岐阜市歴史博物館である。が、そこの職員ではない。悠子の身分は中部文化芸術大学の助手兼付属高校教員である。学生時代に高校教員資格と学芸員資格を修得していた。教員でもある母の強い勧めによるものであった。大学にはつごう七年在籍していた。

そして博士課程に進むかどうするか迷っていた時、森村教授から話があった。

「私が教えた山倉君が助手を欲しがっている。付属高校の教員を兼ねてという、君の郷里に近い岐阜市近郊の大学だ。どうする」。

教授は悠子の顔をじっとみつめてささやくように言った。悠子はとまどい、少し考えさせてくださいと答えた。三日の猶予をいただき母とも相談し受けることにした。

二年前の三月のことになる。母は悠子の年齢や結婚のことを思い悩んでいた。その娘が自分の住んでいる美濃市から近いところに来るので至極喜んだ。

悠子は長良川橋近くにアパートを借りた。