三 アメリカひとり旅

 

八月下旬、バスは、引き続き南部ルイジアナ州ニューオーリンズに着いた。

「ついにこんな南まで来てしまったんだなぁ。」

と思いつつ、安ホテルを探した。ここは、かつて一八世紀初頭にフランス人によって築かれ、南ヨーロッパの雰囲気のある、のんびりとした街だ。狭い街路のところどころに石畳が敷き詰められ、古い街灯が残っていたりする。多くの建物の二階にはバルコニーがあって小さなプランターを置いて、かわいい花を咲かせている。街を歩いているだけで気が休まる。

メキシコ湾の海沿いを歩いているとどこからともなくジャズの音楽が聞こえてくる。

 
 

その音に誘われながら歩く先には、エキゾチックなムードを醸し出す酒場やクラブが建ち並ぶバーボンストリートがある。白人よりも黒人の人々の割合が圧倒的に多い街だ。これまでこの川はこの街から内陸へと向かう。川沿いのほとりにある公園で、小さな子を散歩させていた母親がいた。ベンチにはトランペットを吹く男性。

「絵になる~。」

と思った。街の「ストリートカー」と呼ばれるちんちん電車に乗ってみた。とてもかわいい、おしゃれな電車だった。ここで一つの事件が「起きた」。「起きた」といいか、「始まった」と言ったほうが正しいかもしれない。

ある黒人男性が、二つ向こうの座席からこれらをじっと見ていることに気づく。目を逸らしつつも、時折視線をやると、まだ見ている。こちらを見ているというよりも、自分を見ているのだ。

「おかしいな。」

と思いつつ、少し様子を伺っていると、彼は、なんと近づいて来て、ついに声をかけてきた。

「君はどこから来たんだい?」「なんでここに来たんだい?」

と言う。よくある質問が続き、いつしかいろいろな話が出て、お互い盛り上がり、

「暑いからちょっと話でもしようよ。」

ということになり、彼の自宅に誘われたのだ。身長一八0センチくらいの、細身の男性で、とても優しい口調で、対応もよかった。その彼の家に着くと、

「暑いからちょっとシャワーを浴びないか。」

と勧められる。リュックには、着替えもなかったし、それほど汗もかいていなかったので断った。彼は、

「じゃあ、俺はこれから入るから、ちょっとここで待っていてくれ。」

と言って、リビングを出ていった。