待っている間、何気に部屋の中を見回したり、彼の持ち物を遠目から見たりした。そこで目に入った物は、男性のよからぬ雑誌だった。「えっ!」と思った。そういえば、この街は、「ホモセクシュアリティー」が多いとガイドブックに書いてあったことを思い出した。
「やばいぞ。」と思った。その瞬間、シャワールームのドアが開く音がした。そのまま家を抜け出し、走って逃げた。後ろを振り向かずに全力で逃げた。彼が実際は「ホモセクシュアリティー」の人だったのかどうかはわからない。
しかし、
「その場から逃げてよかった。」
と思った。以前、ロサンゼルスにいたとき、同じように「ひとり旅」をしている日本人からこんな話を聞いていたことを思い出した。
「日本人男性は、ゲイの対象になりやすいんだ。交差点で車で止まっていると、横断歩道を歩く人のなかに、車の前で立ち止まり、じっと見つめられることがある。」
と言っていた。この街の二面性を見た思いがした。
ニューオーリンズ三泊目、巨大なハリケーンがフロリダに接近中というニュースを見た。フロリダ州先端にあるマイアミやキーウェストなどにも行ってみたかったが、進路を北に変更し、アラバマ州モンゴメリーからジョージア州アトランタへと進んだ。 アトランタに着いたのは、夜中過ぎの二時だった。暗闇の中、バスは着いた。
「えー、こんなとこで降りなきゃいけないの?」
と思ったが、しかたがない。また、リュックを背負い、重いスーツケースをガラガラと音をさせて転がしながら、真夜中の道を一人歩いた。そこへ前方から大きな男が向かって走ってきた。
「えっ、なんだ、なんだ?」
と思いながら、こちらに走ってくる。その男の後ろから別の二人の男がどうやら追いかけてくる様子だった。その瞬間、
「パッーン」「パッーン」
という乾いた音が聞こえた。前方から向かってきた男は、真横を通り過ぎ、バスが停車していた後方の駐車場へと走り去っていった。その男を追っていた二人は警察官だった。
「えっ、えー、事件だったのかぁ?」
と声が震えた。ちょっとした捕物帖だったのだ。しかし、冷静に考えると、
「彼らが打った二発の弾は、俺のほうに向いていたんじゃないか」
と思った。