まさとは、あせった。
「としおには絶対負けられない!」
まさとも今まで出したことのないほどのスピードで飛んだ。
「まさと君、僕、もうだめだ」
そう言ったのは、まさとについてる鳥族の精。
「えっ!」
次の瞬間。わーーー。大声が響いたかと思うと、上からまさとがくるくると落ちてきた。としおは、はっとしてまさとを追った。落ちていくまさとと並びながら、としおはまさとのそばに寄った。
「まさと。僕の言う通りに叫んで! べとべとべー」
「なんだそれ!」
「いいから! 助かりたかったら、早く言って!」
もう地面がすぐそこに見えてきた。
「べ、と、べ、と、べ、と、まさと! 早く言うんだ」
「べとべとべとべとべとべとべと……」
二人は大きな声で叫び始めた。すると、まさとの体が、ふわっと浮かんだ。あわや、まさとの頭は地面にぶつかる寸前だった。
「ふー、助かったー! としお、すっげー呪文知ってんなぁ」
「ははは、それは僕の妖精が教えてくれたんだ。鳥族に伝わる王者の呪文だって!」
「としお……。そんな大事な呪文を、僕に教えてくれてありがとう!」
二人は一緒にゴールに向かった。としおの心は、もう雲ひとつない青空のように晴れわたっていた。
「なぁ、としお。考えてるばかりじゃダメだろう」
妖精の声が聞こえた気がして、あたりを見回したが、妖精の姿はどこにもなかった。としおは
「おーい」
と叫びながら、広い空に輪を描くように飛んだ。
翌週の月曜日、としおは朝から気が重かった。今日の三時間目は体育の授業だ。手首の痛みもすっかりとれ、体育を見学するうまい言い訳も見つからない。とうとう三時間目がやってきた。としおは、半分やけになりながら体操服に着替えた。整列したみんなの前で、先生はゆっくりと口を開いた。
「今日の体育は、とび箱ではなく、先生たちが子どものころに遊んでいた『馬とび』という遊びを紹介します」
「えー、馬とびー? 何それ」
みんないったい何が始まるのかと、先生の説明に集中した。