『非現実の幕開け』
眉間に皺を寄せる。
その睨んだ意図が理解できたのか、憑依生命体は何の躊躇もなく魔剣をこちらに振り下ろしてくる。
「(‼ この魔剣に触れれば、ナイフでバターを切るかの如く、簡単に体が切り裂かれる!)」
現実味を帯びたその想定に、熱くなっていた俺の心情が情けなく瞬間冷凍され、無慈悲な一振りで、己の闘争心という言葉が頭の中から搔き消える。
結果、全力で回避する事に脳内変換され、見えない剣筋の中で無様に転がるように避ける。
「っー‼」
肝を冷やした。本気で死ぬかと思った。
こちらの準備も待たずいきなり襲うところが、これまた化け物だ。
今は奇跡的に魔剣を無傷で避けられたが、あのまま行動が遅れていたら上半身と下半身が真っ二つにされてもおかしくなかった。やはり思いだけじゃ解決出来ないことも多い。しかも転がった先が足場の悪い小さな瓦礫が散乱する中だったので、チクチクとやけに背中が痛い。
「……いっつー」
一発避けたからと言ってぼやぼやしていられない。「次もまた来る」という恐怖が痛みによる気遣いもさせてくれない……はずだったが、奴に振り向く前に俺の意識はそれ以上に別のものへと変わった。
「⁉ 何? 光っ……てる? 何これ⁉」
突如、俺の利き腕に取り付けてあったブレスレットに埋め込まれた宝石が、眩しいくらいにはっきりと輝く。
……いや、光りだしたのは、今じゃない。
もっと前からか?
(何で⁉ どうして? ってか、何で?)
その言葉が頭の中を蹂躙する。
それゆえ、一瞬の一太刀を躱すまでの間、俺はそれに気を取られてしまった。
「(あっ!)」
時既に遅し。
それでも必死に人間の身体の限界を超えるように体をくねらせるが、いかんせん気付くのが遅かった。
直撃ではないものの、これは腕一本は飛ぶだろう。
そう思った瞬間、一瞬で視界が真っ白になり異空間にでも飛ばされたかのような感覚に陥った。