「⁉」
もし憑依生命体に感情があったら「魔剣を振り下ろした者」と「振り下ろされた者」の二人は同じ感想を抱いただろう。
「……い、いってぇ!」
数メートル先の魔剣から放たれた衝撃波を、反射的に利き腕が受け止めていた。
意識してやったことではない、無意識に体を庇うように伸び出た腕が、偶然それに当たっただけだ。
しかし、ここで矛盾が生まれる。
人間の力量と憑依生命体の力量を比べれば、当然憑依生命体の方が圧倒的に力は勝る。
ここでもそれは例外ではなく、生身の体ではその時点で吹き飛んでいる。
だが、俺の腕は吹き飛ぶどころか血の一滴も噴出していない。
何故? その答えは即座に分かった。
それは、俺の体は人間のそれとは異なっていたからだ。
「は⁉ な! 何だ! これ・・・⁉」
例えるなら、グレイ系の宇宙人か。全身がオレンジ色を基調とし左右の肩と胸の中央には黄色に輝く宝石のような突起物が埋め込まれている。その他に黒と白の模様が中心から細部へと届いており、両腕にはロケット型の籠手が取り付けられ、それには大きな炎を模したようなエンブレムがついている。
俯いていた顔を勢いよく上げ、今の状況と自身の身体を何度も確認する。
「……ガアアアアアアアアアア!!!」
「! うわ‼ やめて! やめて‼」
こちらの状況把握がままならないまま、奴がこちらに走って向かってくる。
先の行動と相違して余裕が無くなり焦っているようだった。
力任せに思いっきり振り翳してくる魔剣を無様に逆四つん這い歩きで回避。
足場が悪い状態で間一髪避ける事が出来たものの、その衝撃でこの階の壁と廊下が砕かれ下階へと貫通してしまう。
「(これじゃあ駄目だ!いくらルナ姉から離れているからと言っても、他の病棟を犠牲には出来ない!)」
自分に向けられた憑依生命体の無慈悲で圧倒的な暴力を幾つも目に刻みながら頭を働かせる。
たとえ彼女を救う為だと言っても憑依生命体をむやみに遠ざけ、外部の人に危険が及んでは元も子もない。何とか誰も犠牲にならない場所、例えば「外」に誘き寄せるとか……。
しかしその結論に至るまで、思いの外「奴」が接近していたので、手段を考える時間は殆ど無かった。
ただ、たまたま俺が顔をあげた先に、人一人がギリギリ通れそうなガラス窓があった。
「……うおおおおおお!!!」
俺は雄叫びをあげながら、思いきりタックルするかのように全身で奴にぶつかっていき、その勢いで窓ガラスから落とそうとする。
が、奴を押し付けた窓ガラスから病院を構築している瓦礫も粉砕しており当然のように憑依生命体が落下する中で自分も巻き添えを食らう。
「うおおおおおおあああああああ!!!?」
「グオオオオオオオオオオ!!!」
高さは数十メートル。
顔面から地平線へダイブし、派手に崩れた瓦礫がコンクリートの地平へと届き土煙を上げながら「があああん‼」と、衝撃が頭に響く。