特殊愛

私には、ずっと片想いしている人がいる。

23歳の時、メガネをかけたさえない私は、出勤途中に痴漢にあった。

その男の手を掴み、「痴漢しましたよね」と言ったら、「はぁーありえないでしょ。ないない」と開き直ってきた。周りの乗客を見ると「勘違いじゃない?」「しないよねー」など、心ないヒソヒソ話が聞こえてきて「なんで信じてくれないの?」と、大声で叫んでしまった。

それでも、誰も聞いてくれなくて泣きそうになった。駅に着きそうになった時、彼が現れた。私の手と痴漢した男の手を掴み、交番に行き証人として話をしてくれた。私にとって彼は恩人。彼の名前を聞いたはずなのに忘れてしまった。私のバカ……。

それから私は、彼に会えないかなぁと思うようになった。するとある日、同じ通勤電車に彼が乗っていた。その日から毎日車内で彼を見かけるようになって、しかも、会社の食堂でも会った。同じ会社だったなんて、すごい偶然。

お昼休みになると、食堂に来ないかなぁと毎日彼を待ちわびていた。最近仲良くなった、同期の横山さんと一緒に食堂に行った時に、彼のことを知ってるか聞いてみた。横山さんは彼を知っていて、私たちと同期入社で、部署違いだという。

名前は、たかはしまさると教えてくれた。

「そうそう、高橋さんだ!」今日も彼に会うために、横山さんと一緒に食堂に行く。すると、横山さんは

「高橋ーお疲れー。一緒に食べない?あっ、電話だー。ちょっと待ってて」と言い残し走って行ってしまった。憧れの高橋さんが近づいてくる。どうしよう……。

「小森さん、久しぶりですね」

「えっ! 名前を覚えててくれたんですか?あの時は助けてくださり、本当にありがとうございました。私ってわかりました?」

「メガネやめたんだね! わかってたよ。ずっと……」優しく微笑む彼。

ギュルギュギュギュギュ……。こんな時に、可愛くないリアルなお腹の音。恥ずかしい。

高橋さんが笑った。笑った顔も素敵だな……と見とれていると、横山さんが戻ってきて私のお尻をポンポンと叩いてウインクしてきた。彼女が2人の時間を作ってくれたおかげで、高橋さんとお話ができた。感謝感謝。3人で昼食を終えて、部署に戻る時、高橋さんから1枚のメモを渡された。机の下でメモを開くと、携帯の番号、そして、LINEのIDが書いてあった。

仕事を終えて、家に着く。ずっと好きだった人と話ができただけでなく、連絡先まで教えてもらえたなんて、今日の出来事が夢ではないかと、鏡の前で頬を軽くつねる。痛い。現実だ。