【前回の記事を読む】コーヒーをこぼしただけで3億6千万円…大企業から多額の賠償金を勝ち取れたワケ
第1章 小さな政府と[民活] ――民事訴訟を促して社会問題を解決
<事例>事故に冷淡な姿勢で「懲罰的損害賠償」3億円 ――「マクドナルド・コーヒー訴訟」
リーベックさんはマクドナルド社に2万ドル(260万円)の支払いを求めました。が、同社の答えは800ドル(10万4000円)を支払うとのことでした。話にならない額です。
もとはといえば自分がこぼして負ったやけどです。リーベックさんは悩みましたが、マクドナルド社の冷たい対応に腹が立ち、テキサス州のリード・モーガン(Reed Morgan)弁護士に相談し、マクドナルド社を相手取ってニューメキシコ州連邦地方裁判所に訴訟を起こすことにしました。不当に危険なコーヒーを販売したマクドナルド社に「重大な過失」があり、損害賠償の義務があると訴えたのです。
訴訟前に改めてマクドナルド社に和解を持ちかけましたが、同社は当然のように拒否しました。「コーヒーはどのチェーン店でも同じように提供している」、「リーベックさんは自分でコーヒーをこぼした」、「マクドナルド社には落ち度はない」、それがマクドナルド社の答えでした。
強気に見えたマクドナルド社でしたが、訴訟が始まると次々と不利な証拠が出てきます。
一つは、マクドナルド社がコンサルタントやコーヒー業界のアドバイスを採り入れ、風味を引き出すためにコーヒーを沸騰寸前の温度に保っていたことです。同社のマニュアルには、最適な味を得るためコーヒーは華氏195度から205度(摂氏90~96度)で抽出し、180度から190度(同82~88度)で保持しなければならないと書かれていました。
これは通常より20~30度高い温度です。また、カップには注意書きがありましたが、極めて見づらいものでした。さらにもう一つ重要なことがわかりました。マクドナルド社では過去10年間にリーベックさんと同じような苦情を700件受けていたのです。やけどを負った人の中には子どもや乳幼児もおり、重度のやけどで治療に数年を要した人もいました。
これに対しマクドナルドの幹部は、「レストランで出す食事のほうが危険だ」と、特にとりたてて警告しない選択をしたと証言しました。