夢の記憶

そして最初に勤めたリフォーム工事会社、社長はもともと、しっかり会社を経営して利益を出し、社員を育てていこうなどとは考えていなかった。

どこかで仕事にあぶれている人間を引っ張ってきて、とりあえず仕事の契約を結んで、人員だけを配置する。ほとんどが素人ばかりだから、当然、工期に間に合わない。

最初の着手金だけ取って逃げるか、いい加減な仕事をする。国から出る補助金や、従業員に対するあらゆる手当てを搾取して、半年しないうちに、難癖をつけてクビにしてしまう。

そしてお客や元従業員から訴えられそうになると、逃げてまた違う土地へ行って、事業を起こす。そんなことをくりかえしていた。

かなりあとになって相談にいった社会保険労務士の人が、不当解雇で訴えれば、少なくても一か月分は給料をもらえたと教えてくれた。

だからあの会社は、若くて無知な未成年を進んで雇用していたのだ。その後、何か月間か置いてくれた男たちは、ボスが以前薬剤開発の仕事をしていて、危険ドラッグの密輸に手を染めていた。それでお金になると踏んだので、人体実験を始めた。

インターネットで多額の謝礼を匂わせれば、それに釣られて女性はいくらでも付いてきた。その女性を薬漬けにして、金品を搾取していたのだ。そんな事件に巻き込まれてしまったのは、ひとえに私がいかになにも考えていなかったかということである。

死者が出なかったのがまだしも救いで、大きなニュースにはならなかった。

のちに私がお世話になった弁護士に調べてもらったところ、あのとき警察が動いて、捕まっていた女性は皆救出されたそうで、それを知って安堵している。

あのとき、逃げるきっかけをくれた「ともえ」という女性は、大した度胸を持った女性だと、感心した記憶が今でも鮮明に残っている。絶対にここで命を落としてなるものかという、強い思いがあれば、人はどんな状況からでも脱出できるということを、身をもって私に教えてくれた。

結果的に私も加担したことは事実なので、二度とこのようなことのないようにと、反省するとともにあのときの恐怖を忘れないと胸に誓った。

この事件については、私の余罪を追及されたときに、警察と国選弁護人に全部話した。その折、しっかり本物を見る目を養うように、取り調べ官に言われた。