がんばれ、新人添乗員
初めての添乗
いよいよ添乗員としての仕事が始まった。
「皆さんこんにちは、今日から皆さんとご一緒する添乗員の山田です。では荷物を持って、あちらに停まっているバスに乗ってください。正面にL交換学生と貼ってあります。それから、乗車前にスーツケースをバスのドライバーに渡してください。下にあるトランクに入れてくれますから」
学生たちは、順次スーツケースをゴロゴロひっぱりながらバスに向かった。一か月ぶりの再会に話が弾んでいる。羽田で見送ったときよりも、皆心なしか逞しくなったようである。一人でアメリカ人家庭に一か月滞在するのだから、言葉の面でも、習慣の面でも戸惑ったことも多かったに違いない。
バスの中で人数を確認していく。三十名全員が乗り込んだ。間もなくバスは空港のロータリーをぐるっと回り、宿泊先のホテルへと向かった。真知子はマイクを手に取り、運転席の横に立った。
「あらためましてごあいさつさせていただきます。今日からテキサス組の添乗をいたします山田真知子です。もう一人は、当社の大阪支店長の松井です。出発前にも羽田空港でお会いしていますので覚えていただいてるとは思いますが、これから二週間皆さんとご一緒しますので、よろしくお願いいたします」
パチパチパチと拍手が起こる。
「ダラスでホームステイしている八名は、明日出発便に合わせてホストファミリーが空港まで送ってきますので、合計三十八名となります。では、只今より空港近郊のホテルに移動します。到着後はホテルにチェックインし、午後六時に夕食となります。その後は、大きな会議室を取ってありますので、そこでおくつろぎください」
ホテルは空港から十五分のところにあった。周りには数軒の商店やレストランがあるだけである。ほとんどの宿泊客は乗継便の調整のために泊まるため、翌朝出発するのに便利というのが売りである。バスがホテルの前に着いた。運転手が座席下にある大きなハッチを開けて、皆が下りてくるのを待ち構えている。
「では、順に下りてください。下でスーツケースを取って、ホテルのロビーでお待ちください」
出発のときより荷物が増えている人もいるようだ。これからのツアーの間にも土産などを買うので、もっと荷物が増えるだろう。忘れ物がないように気をつけなきゃと思いながら、真知子は車内を点検し、ドライバーに挨拶をすると、皆が待つホテルのロビーに向かった。ロビーでは、支店長が既に部屋のカギを渡し始めていた。