一 午前…… 十時三十分 クリスマスイヴ
そして凛と仲山の背中を見送ることもなく、惟子はポケットからメモを取り出しながら足早に去っていく。
「さて……凛、本当に久しぶりだな。元気だったか?」
ぎこちなく笑顔を作って、仲山は明るく娘に声をかけた。凛は口元を尖らせたまま黙っている。その顔を見て、仲山はベンチに置いていたクマのぬいぐるみを手に取った。
「凛、ちょっと早いけどこれ、お父さんからのクリスマスプレゼントだ」
「何これ、いらない」
黄色いコートの女の子が小さい声で呟く。
「クマさんだ、お前に会いたがってたぞ、がおー」
「いらない。がおーってライオンじゃん。あとそれって小さい子用でしょ、凛はもう三年生だからね」
「まあそう言うなよ。お父さん、気合い入れてきたんだ」
とりあえず、と仲山は、惟子に持たされた水色のリュックを少し開けてクマのぬいぐるみを押し込む。中身はかなりぎっしり詰まっていて、クマを入れたらもうパンパンだった。
これを凛に背負わせるわけにはいかないと、自分が手に持って運ぶことにする。
凛は出会ってからずっと不機嫌だった。
「今日はその服なんだね」
そう言って顔をぷいっと横に向ける。
「この服じゃダメだったか? 確かに、格好よくないかもしれないな……」
仲山は困りつつも娘の手を取った。
「よーし、凛。もう予定が大きくずれてしまったからな。急ごう、夢の国ドリームランドを思いっ切り楽しむぞ」
「えー?」
気乗りしない声を出しながらも、凛は手を引かれた。