【前回の記事を読む】「世界一豊かな国」でお金を請う人々に対し…「自分への怒りが湧いた」行動とは
三 アメリカひとり旅
ロサンゼルス郊外に「ワッツ」という町がある。ここに「ワッツタワー」という巨大な塔があると聞いたことがある。ここへ行ってみようと思った。この塔は、電波塔でもなければ、展望台でもない。たった一人の人間がこつこつと作り続けた芸術作品だ。製作者は、サイモン・ロディアという人。彼は、町のタイル職人だった。一九二一年から十二年もかけて作ったといわれている。
「一体、何のために作ったのか?」
そこを訪れた人なら誰もが持つ疑問だろう。
この町は、もともとはヒスパニック系、アジア系など様々な民族が住んでいたが、第二次世界大戦で多くの人が戦争に連れていかれ、空いた土地は軍事産業の誘致や居住地として使われた。
戦争が終わると、今度は失業した労働者が町に溢れ、少しずつ治安が悪くなっていった。ロディア自身もイタリアからの移民で、サンフランシスコの建設現場で働きながら生計を立て、二十二歳でこの町に小さな土地を購入し、塔の製作に取りかかった。
「ワッツタワー」は、見晴台や数本の小さな塔、そして二十点近くの彫刻などからなり、中心の大きな塔は三本で、一番高いものは、三十メートルにもなる。ここをきちんとした足場もなく作ってしまったのだからすごいとしか言いようがない。
使われた材料は、鉄筋モルタルで、タイルやガラスもの、そしてロディア自身が飲んだ清涼飲料水の瓶などが埋め込まれている。彼は、働きながらこつこつと作り続けたのだった。五十五歳のときにようやく完成するが、なぜかその翌年にこの塔を全部ある知人に渡して、町を離れてしまう。
「不思議だ。」
その後、幾度も取り壊しの話があったというが、その度に地元住民の反対があり、こうして今でも残されている。暴動がこの町で起こったときも、「ワッツタワー」を破壊する者は誰一人いなかったという。
「どれだけ人に愛されてきたんだろうか」と思った。
彼は生前、「アメリカのために何かがしたかった」と言っていたという。この町はかつてほど危険な町ではなくなったが、彼の残したものは一体何だったのかということを考えると、「バラバラだった住民の心を一つにした」ことだったのではないだろうか。
ロサンゼルスは、夢破れし者と夢を追いかける者が入り交じる、「すごい街だ」と思った。