「あー、そうそう。今日、おれたちのクラスで面白いことがあったんだぜ」
まさとが得意げにまくしたてた。
「こいつったらさ、体育の時間、とび箱の三段をとびそこなって顔面から落ちてやんの。信じられるか? 五年生になって、まだ三段だぜ」
「だれだって苦手なものはあるわよ」
真理子が気の毒そうにとしおをかばった。
「うちのクラスの女子なんて六段くらい軽くとぶぜ」
隣のクラスの友也があきれたように言った。友也とは時々、一緒に遊ぶのだが、みんなといる時はけっこう冷たい。
「まさに、こいつには『ドジオ』がぴったり。まぁ、としおが鳥族じゃないことだけは確かだな」
まさとがとしおの方を向いてそう言うと、男の子たちは愉快そうに大声で笑った。
“ドジオ”
言葉がこだまのように響く。
としおは下を向き唇をかんだ。涙なんか見せたら、また笑いのネタにされてしまう。
「しかしなぁ…」
まさとが何やら考え込んだように言った。
「おまえんちのお父さん、あんなにスポーツ万能なのに、どうしておまえは……」
「お父さんと比べるな! うるさい。おまえなんか……馬鹿やろう!」
まさとの言葉をさえぎるように叫ぶと、としおは「うわー」と泣き声をあげながら走って帰った。
「もう、まさと君たら、からかいすぎよ。としお君、泣いて帰ったじゃないの」
「あいつ、珍しく怒った!」
なぜか嬉しそうにまさとがつぶやいた。