第一部 銀の画鋲
「本屋の主人」
僕は不吉な猫だ。そう言われた。
生まれてすぐ飼われた家の女主人の前を横切ったら、彼女は翌日に死んだ。
僕は彼女が死んだのはいい気味だと思った。
だって、すごくいやな女だったんだ。
旦那さんの見えないところでメイドをいじめて泣かせていた。
それに、僕を抱きしめながら人の悪口ばかり僕の耳に吹き込むんだ。もちろん、旦那さんの悪口も。
あの香水の匂いにもうんざりしていた。
女主人が死んだあと、僕はその家を出された。
不吉だってさ。
野良猫になった僕は、町中の人間から無視され、いじめられた。
この黒猫は死に神を呼ぶ黒猫だから近寄るなって。
僕の額に、ほら、ここに傷があるだろう。これはナイフの傷だ。
数人の子供に捕まった時につけられた傷だ。
猫の友達もいなかった。みんな、僕を見ても知らんぷりする。
僕が美しいから、きっとみんな嫉妬していたんだな。
しばらくして占い師に拾われ、街を出た。
占い師っていっても、まったくのインチキさ。
僕を連れていると本物っぽく見えるって、気持ちが悪いくらいに僕にベタベタするんだ。
猫っ可愛いがりっていうだろ。そんな感じだった。
居心地が悪かった。
優しいのに嘘なんだ。