次に武藤が狙いを付けたブロックは南関東ブロックだった。選挙区としては神奈川県、千葉県、山梨県である。

「神奈川県?……本田学が居るじゃない。そうだ! 彼を口説いて古巣の神奈川七区から小選挙区に打って出れば、小選挙区と比例で戦える」と独り言を言うと、早速本田に電話を入れるのであった。

それから三日後、形式だけの面接試験を受けに武藤の理事長室を本田学が訪れた。

「理事長お久しぶりです、折り入ってご相談って何でしょうか?」と本田は面接試験官の武藤に逆質問してきた。

「ええ、他でもないんだけど貴方に選挙に出馬して欲しいの。私が今度立ち上げる政党から……」と武藤に答えられ、

「選挙!? それだけは勘弁して下さい。他の事なら多少の無理難題でもお受けする覚悟はありますが、選挙だけはもうこりごりです。私が以前保守系政党から神奈川七区の衆議院議員選挙に出馬した際の結果を覚えておられるでしょう、あの左翼政党の半分の票も取れなかったんですよ、私がいかに選挙下手かを物語っています。いくら理事長のお願いと言われてもそれだけは……」とにべもなく断ってきた。

「まあ、結論を急がずに私の話を聞いてからにして」と言って武藤は新党を立ち上げる目的や政権に入ってからの構想などを詳細に語った。すると本田が、

「なるほど、確かに今、河井栄次郎の理念を体現しようとした中道右派の政党が存在していたなら大きく議席を伸ばしたでしょうね。なるほどその戦略は行けるかもしれませんね。仮に選挙下手な私でも悪くても比例区で復活当選できるかもしれない、やってみる価値はありそうですね」と本田が俄然前向きになってきた。そこで武藤は、

「貴方には議員に当選した後、古巣の財務省へ大臣ないし副大臣として入閣して、財務省改革を担当して欲しいの。だっておかしいでしょう? 企業に複式簿記を押し付けて置いて役所だけ単式簿記って?……国の借金残高だけを声高に叫ぶけどその借金でどんな素晴らしい資産が形成されているのかは秘密だなんて何が国民主権よ、ふざけるのもたいがいにしろ! と財務省には言いたいわ」と武藤が言うと、

「確かに役所も複式簿記にすべきだと私も思います」と本田が武藤に同調した。

「円借款にしたって、無償と有償があるでしょう。日本が東京オリンピックを開催するに当たって東海道新幹線を建設する際は、お金をIMFから借り入れて建設し、一九五三年から借り入れ、一九九〇年七月までコツコツと返済した歴史があるのよ、そういった事をもっと国民にちゃんとディスクローズする必要もあると思わない?ほら、河井継之助が藩の財政を立て直す際『入るを図って出を制す』と言ったじゃない。あれを今の日本でもするべきだと思わない?」と武藤が熱弁したのに対し、

「確かに日本の各省庁は省益を考えるあまり情報を操作しがちです。それは十分承知しています。日本のような成熟社会ではもっと省益などを考えずに情報を正確に国民に伝えるべきと考えます。先生のお考えに賛同致します。分かりました、私でお役に立てるのであれば、先生の立ち上げる党からもう一度選挙に打って出ます」と本田が覚悟を決めて答えてくれた。

「ありがとう、恩に着るわ」と武藤が言って握手を求めた。

これに気をよくした武藤は次なるターゲットとして、北関東ブロックでの候補者選定をするのであった。北関東ブロックは、茨城県、群馬県、栃木県、埼玉県を選挙区とし、有権者数が一、一〇〇万人を超え、首都圏では定数二二名の南関東ブロックに次ぐ、定数一九名の大選挙区であった。

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