『非現実の幕開け』
現状を見て自力で解決する術から手段を変え、梃の原理を用いようと考えるが、それに適したつっかえ棒は周辺になく、残念ながら手伝ってくれそうな人もいなかった。
せっかく会えたというのに、打開策の一つも思い浮かばない。
俺は何て無力なんだろう……。
「……無理だよ」
すると彼女が、必死にもがく俺を見て微かにそう言った。
俺一人では、持ち上がらない。残念ながら、ルナ姉の言葉からそう判断してしまう。
「……くっそおぉ!! 何だ!?」
俺が憤慨の声をあげた後、予兆もなしに病院が微かに地鳴りをあげる。
その地響きは外で起こったものと似ており、建物が揺れ天井から小さな瓦礫の破片がパラパラと俺たちに降り注ぐ。
「……憑依……生命体」
彼女の震える声。
見ると彼女の瞳から涙が零れていた。声に出さなくとも分かる。「助けて!」という悲痛な叫びが心に刺さる。
いつもは何気なく強気で、優しくてその温かさで全てを包み込んでくれていた彼女だが、今はその強気さの欠片さえ見当たらなかった。