そう言っている間にも、この建物が崩れる轟音が聞こえる。
あと数分もすれば憑依生命体が(恐らく)野放しになっているせいで、俺たちは瓦礫に埋もれて死ぬだろう。
解決案として、「俺が囮になり憑依生命体を引き離す」ことを考案するが、それを成功させるだけの自信と勇気が無い。見た事もない怪物に怖気づき、手と足が自然と震える。情けない。俺はわざわざ傍に駆けつけて一緒に死んでやることしか出来ないのか……。
そう落胆するように膝をつき、涙が止まらない不安いっぱいの顔で振り向いた。
すると、「レッカ君」と言いながらルナ姉がぎこちなく俺の頬に手を伸ばす。
初めはその行為にただ疑問を持つだけだったが、不意に彼女と目が合った。
その穏やかな瞳と朗らかに微笑む表情から、俺はその思いに答えるようにその伸ばされた手を優しく手の甲から包むように両手で握る。
その手はひんやりと冷たく、まるで心そのものを具現化しているようだった。
……いつまでも、彼女の手を握っていたい。
いつまでもこうしていたかったが、再び小さな地響きが襲い瞬時に恐怖で意識が戻る。
もう時間がない。このまま数分もいれば、二人共生き埋めになってしまう。そんな現実が、正体不明のやるせない思いと共に俺の心を染めていく。