【前回の記事を読む】「世の中が便利になると“ありがとう”が減る。そうすると…」

第1章  思い通りの人生をデザインするための「人間力」

変人ポーの話がこのときいったん、止まった。変人ポーには珍らしく、どう説明しようか考えているらしい。

それでも10秒も経たないうちにまた話し出した。

「よし。これも結論から言うと、新しいことをやると必ず批判が伴うということだ。必ず、必ずだ。なぜなら人は変化を嫌う。いままでやってきたやり方が楽だし、変化することのリスクを過度に恐れる。その変化を理解するより、その変化を批判することのほうがよっぽど簡単だからだ。

人は偉そうに他人を批判すれば優越感にも浸れるし、ストレス解消にも繋がるからね。しかし皮肉なことに、いまの時代やこれからのとらの時代においては、変化をしないこと自体がリスクなんだ」

「でも人間力の観点で言うと、父さんは便利さに溺れずに人間力を大事にしろって言うでしょ。それってむしろ変化するなってことにならない?」

「そうではないな。ともかく、人が変化をするとき、あるいは何か新しいことを始めるときには必ず世間より批判されるということが一つ。それに、これからとらが生きる時代というのは変化していかないと、コントロールされる側の人間になってしまうよ」

出た。“コントロールされる側の人間”。これも変人ポーの話に度々出てくる言葉だ。しかしこの場面でこの言葉は、直接的な意義を持たないのでここでは触れない。

「変化するというのは、時代の変化に適応していくということだ。それだけではないのが、それに併せて新しいことに躊躇することなく挑戦していく力とも言える。もう一度言う。とらの中には変えてはならないものと、変化していかなければならないものが同時に二つ存在する。

変えてはならないものというのは、例えば人間力の四つの力に関する考え方だったり、四つの力そのものと言っても良い。その他にも信念や友情、愛情なども変えてはならないもの……というか変わらないことが理想ではあるよね。

一方、変化していかなければならないものというのは、自分が使用している各種ツールや仕事の仕方、時流の読み方など、それを変化させないと時代に取り残されるだけのものだ。変化する力と言っても良い。故に変化する力を発動する前にこの二つをまず見極めることが大事であり、そしていざ変化を実行していくというときには批判が伴うので、それには覚悟が必要だということだ」

このとき、当時まだ14歳だったボクはやはり、途中から理解が追い付いていなかったので、現在の自分がこれを補足するとこうだ。

ただ、現在ほど人間らしさ――つまり人間力が薄れてきた時代もなく、故に現在ほど人間力が必要な時代はかつてなかったと変人ポーは言っており、この意義はいまの時勢のスピードが早くなればなるほど、必ず強まっていく。

「だから簡単なことだよ」

と変人ポーは言っていた。みんな目の前の便利さに溺れて“ありがとう”が“あたりまえ”になっていき、この人間力を失っていく時代において、この人間力の大切さを知り、この人間力を磨き、この人間力を備えることができる人がいるとすれば、世の中は必然とその人を重宝することになるだろう。ただ、何度も言っていた通り、マイノリティーの存在となるので「その覚悟は必要だ」と言っていたのだと思う。