一通り院内の様子を窺うが、そこは至る所で天井が貫かれ瓦礫に埋もれていたりと、とても治療を目的としている建築物には見えなかった。これではいつも使っているエレベーターは使えないと考え、階段が設けられてある方へ向かう。
「(……階段で七階に向かうのは骨が折れるな)」
そう思いながら出入り口からそう遠くない階段を発見し、散乱する幾つもの瓦礫を足で払いながら、勢いよく駆け上がる。もう彼女の安否の事しか俺の頭にはない。
「ルナ姉ー!! ルナ姉ー!!」
息切れが治まらない。
体がどうにかなってしまいそうな程に胸が苦しく、思わず崩壊した手すりに片手をついて必死に息を整える。それでもすぐに一歩、また一歩と階段を上り始め、やっとのことで七階まで辿り着く。
「はーっ! はーっ!」
それからカウンター、ロビーと通り過ぎ、進行中、ちらほらと逃げ遅れた避難患者が少なからず見て取れ、それに逆流するように俺は彼女の名を叫びながら病室を目指す。
すると、
「……レッカ君――!?」
「!」
幻聴なんかじゃない。精一杯の力を振り絞った心もとない声だったが、間違いなく彼女の声だった。そう遠くない、ここから見渡せば姿が見えるかもしれない。即座に大げさに辺りを見渡し、彼女の姿を探す。
すると、数十メートル先に横ばいになり、半身のほとんどが瓦礫に埋もれている彼女を発見した。
「ルナ姉!!」
スライディングでもするかのような勢いでその場に駆け寄り、彼女の安否を確認する。
「ルナ姉!! 大丈夫!!?」
「……レッカ君。やっぱり来たんだ。駄目じゃん……」
今にも生気が抜け落ちる様にグッタリとした彼女は、そう優しく声を張った。
「駄目なもんか! ルナ姉がいない人生なんて考えられるか!! 待ってろ! 今すぐこれを退かしてやる!!」
そう言って、腰の辺りにぶしつけに鎮座した鉄筋を持ち上げようとする。
「……! ぐぐ……!!!」
おぼろげに聞こえた何気ない彼女の言葉を支えに、俺は歯を食いしばり馬鹿力で自分の何倍もある鉄筋コンクリートを退かせようとする。 が、それは傾く気配すら起きなかった……。
「っくそ!! 何で動かねえぇんだ!!!」
「ビクともしない」その現状に俺は次第に冷や汗をかき始めた。
「(……やばい、最悪の状況だ)」