『非現実の幕開け』
夕方の17時半頃だろうか。久禮市にある唯一の大学、「久禮総合経済大学」のとある空き部屋にて、男性4人と女性3人の計7名が集っていた。
自前のパソコンでネットゲームに勤しむ者。
机の上に学校の教材を並べ、執拗に勉学に励む者。
残りの数人とワイワイ騒ぐ者。
皆、思い思いに過ごしていた。
「……!」
不意に先程ネットゲームに勤しんでいた男子高校生が、目の前のPCからの「ピーピー!」という警報音に手を止める。その警報音は広大なこの空き教室の全体に響き渡るほどの高飛車なもので、全メンバーがその音に各々反応する。
「憑依生命体か! 場所は⁉」
先程まで気楽そうにダベっていた薄い金髪の青年が男子学生に確認する。
即座にパソコン画面全体に展開されていたネットゲームのサイトを下部のバーに畳み込み、最小化されていた細部の地域まで的確に作図されている都市の地図を取り出す。彼はそれを一様するように見てから地図の中にある小さな赤いサークル上の目印を発見する。
「……市民病院です!」
「マジか! また痛い所をついてきたな。ま、でも、やるしかないか! オレは現場に行ってくる。残りのメンバーは予定通りSPHに行ってくれ!」
彼の声に3人の男女が頷く。
「オッケー、院さん! そんな奴、軽くボコしてくださいよ!」
院さんの声にいち早く応答した彼女は、自身が着ているセーラー服をクルリと一回転靡かせながら軽やかに部屋を去っていった。そんな彼女の発言に彼は「いや、オレ、多分そういうことしに行かない……」と、小さく苦笑いしながら、既に出て行ってしまった彼女の背中に答える。
「ソル、またね」
続いて、ミディアムパーマで清楚な感じの白のカーディガンを羽織り、ロングスカートを履いた大人っぽい印象の女性が同じように青年に振り返り部屋を去っていく。
ソルと呼ばれた彼からは「おう、気をつけてな」と単調に見送られる。
「……」
最後に、白いニット帽が特徴的な高身長の青年が無言で部屋を去る。そんな彼に“ソル(院さん)”は「頑張れよ」と一方的に声をかけるが、軽く頷くだけで返事は帰ってこなかった。
「……じゃあ、オレも行くんで、平松さんとベニマルも後よろしく!」
3人のメンバーが出て行ったことを確認してから、各々を見送った彼もまた残りの男女3人を置いて部屋を去っていく。
半数以上が出て行ってしまったこの教室に残されたメンバーは3人。目前のPCを操作していた先程の男子高校生と、スーツ姿の青年の二人組はそれぞれ並んで自前のPCを操作している。
最後のショートヘアに学校指定のカッターシャツに紺色のベストを着た少女は、先の騒動に動揺せず続けて勉強をしていた。