『非現実の幕開け』
「でも、いいな。レッカ君、毎日楽しそう」
負のサイクルに嵌り項垂れる間、彼女からそう言われる。こんな不器用な自分に対して、そんな台詞は当然憤慨に値する。
「はぁあ? からかってんのか?」
荒い言葉と共に彼女を睨み付けた。
「そうじゃなくて、毎日同じ変わんない日常を送ってる私なんかより、よっぽど刺激的だなーって」
「……はぁ、羞恥にあふれた俺の人生を刺激的とはこれまた大きく出たな。俺にとっちゃ段々と変人としての道を突き進んでるだけにしか見えねーよ。もー、お先真っ暗って感じ」
思わず両手を広げ、お手上げのポーズをする。
「そんなことないよ。お先明るいよ」
そんな俺に、変わる事のない穏やかな表情と僅かな呆れた態度をとる。
と、同時にルナ姉が微笑みながら「ちょい、ちょい」と、片手で俺を手招きする。
その行動が何を示しているのかは分かるが、意図が分からず不可思議な表情を残しながらルナ姉に寄ると、彼女が大きく上体を起こし、両手を俺の頭に回してくる。
俺はその一瞬の動きに「え?」と言葉にも出来ず、気づけば胸に抱かれていた。
「よしよし」と優しく頭を撫でてくれる。
現状を把握した後、赤面しながらも落ち着きを取り戻し、俺は逆に彼女の腰に両手を手繰り寄せ優しく抱いた。
「……ルナ姉」
出来るのならば、ずっとこうしていたいと思った。
ルナ姉の腕の中は温かくて、それだけで俺は安心する。
現実の苦しみから解き放たれ、ずっとこの温もりに浸っていたい。
……でも、そうは言っていられない。
やがて時間は来て、俺はたった一人家に帰らなくちゃいけない。
それを分かっているから、今はそれだけが辛い。