◆Side Rekka

「……はぁー」

重い足取りで帰路についた。

ルナ姉と別れた後の帰路は、日が沈んでいたせいか視界が薄暗くなっていた。それもあってか俺は脱力感に浸かって、それこそトラックでも突っ込んで来るものなら月にでも吹っ飛んでしまいそうな程にふらふらと家を目指した。

そんななか、突然遠方で、何か重量のあるものが落下したようなすさまじい地響きが轟く。

「!!」

俺は反射するように後方を振り返り、地響きがあった方を見やった。

その目線の先には偶然にも、先程自分がいた市民病院があったので、自然と背筋が凍った。

「……ルナ姉!」

俺は最悪の事態を予想しながら、いても立ってもいられなくなり約1キロメートル先にある病院に走り出した。

「(あの地響き……、まさか!)」

俺の最悪の予想、それは勿論憑依生命体の存在だ。彼らは人間とは比べようもない戦闘スキルを持っており、常人では歯が立たない。俺が行ったところで無駄に犠牲を増やすだけかもしれない。

それでも、何も出来なくとも、たった一人のお姉ちゃんを見捨てられない!

走る最中、最悪のシナリオが何度も俺の頭の中で展開され、自分の心と体が意気投合していないのが如実に分かる。

「うわっ!」

不意につまずきそうになり、ざわついたものが腹にグサグサと当たった。目線を落とすと、そこには公園内の周囲に並ぶ1メートル程の植木があった。どうやら庭木の立ち並ぶ植木にダイレクトアタックしてしまったようだ。

「(情緒不安定だったとは言え、まさか目の前の障害物にも気づかなかったなんて……ったく!)」

不安定な精神の上、苛立ちを抑えていられない。単純なドジっぷりだが、これでいつまでも動じてはいられない。

体に貼りついた葉、突き刺さった草木の枝を退け、ぱっぱと体の汚れを払ってからまた踵を返したように走り出す。

彼女が入院する病院まであと少しだ。

【前回の記事を読む】【小説】ルナ姉の腕の中は温かくて、それだけで俺は安心する