【前回の記事を読む】【小説】「親父に遠慮していたんだよ」…申し訳なさでいっぱいに
第二章 議員宿舎入居
親父さんの気配りにまたもや感謝の気持ちが倍加した。こうして雄太は九段衆議院議員宿舎の住民となった。やれやれだ。
清水議員の秘書との名目である。予備校生だからいわば書生である。清水議員と誠一さんは感謝してもしきれない命の恩人である。
雄太は自分のために一肌脱いでくれた親父さんに感謝しつつ、「士は己を知る者の為に死す」とはこういうことを言うのであろうかと感涙に咽んだ。
宿舎へ入居して早、半年が経ってしまった。年が明けると慌ただしく受験シーズンの到来となる。雄太も少しは目の色を変えて勉強に精出す。
一月の下旬になり、昨年と同じく慶大の経済を目指して受験した。それと同時に政京大学の経済にも入学願書を提出した。その結果や如何に……。残念ながら、慶大への合格は叶わなかった。しかし第二志望の政京大学には合格できた。雄太の家庭では二浪もして大学を目指すことは許されなかった。
雄太は政京大学がどのような大学か確かめに行ってみることにした。宿舎のすぐ隣には広大な建物がある。病院の看護婦寮である。このビルをやり過ごすともう政京大学である。なにせ宿舎から歩いて五、六分の距離である。これ程通学に適している場所はない。大学玄関を入って目立つ場所にパネルに刻まれた文言が目を引いた。論語から抜粋したのかこう記されていた。
子曰、学而時習之、不亦説乎、有朋自遠方来、
不乎楽乎、人不知而不榲、不亦君子呼、
「学んだ事を、時に応じて実習してみるのは、ほんとうにうれしいことだ。
友人が有って、遠方から訪ねて来てくれるのは、ほんとうに楽しいことだ。
人が認めてくれなくとも、不平を抱かないのは、ほんとうに紳士らしい態度だ」
いろいろな地方から同じ志を持つ若者とが出会い、友だちができて、雄太にとって人生のプラスになるのではないか。雄太の将来に友達は光明を与えてくれるのではないかと期待できると思った。
雄太は「ヨーシ!」この大学にかけてみようと決めた。このパネルの文言が入学する決め手となった。
経済学部の競争倍率は六、七人に一人と言う。大学は勉強もしないで易々と入学できるほど甘くはなかった。が、どうやら合格できた。
慶応大への入学は叶わなかったが雄太は〈今の自分にはこれが精一杯だ〉と合点、納得した。志は単純であった。