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現在
ヒョンソクは、生涯にわたり、ヨンミのことを絶えず夢見てきた。目を開いている時も、閉じている時も、ずっと、彼女のことで頭がいっぱいだった。ヨンミは彼の女神だった。彼女がいつもそばにいると想像することで、魂の空虚な部分を埋めていた。ヨンミはいつもヒョンソクの心の中で生きていた。
彼の胸には心臓が二つあった。一つは彼女のもので、もう一つも彼女のものだった。彼女は彼の心の奥底に、白亜紀の地層よりももっと深いところに根差していた。なんと三十年という長い年月が流れる間、彼はいつもヨンミのことを人生の中心として考えてきたのだ。
ときおり絶望と無力感に襲われ、陰鬱でみじめな気分が続く日々が訪れると、彼は彼女を恋しく思い、愛した思い出の断片にすがり、自らの気を奮い立たせようとした。決して彼女をあきらめまいとした。しかしどんなに引き留めておこうとしても、彼女は、過去でも現在でも彼の現実から遠ざかっていった。
絡み合い、こじれながら結ばれているこのようなかたちの愛には、必ず目に見えない障壁が存在するのだろうか。それが現実だろうか。彼はそのことをある程度感じ取っていたので、厳しい現実を受け入れようとした。彼はひそかに考えてみた。“あの頃はどのくらい彼女を愛していたのか”また、“今はどのくらい彼女のことを愛しているのか”と。
彼は勇気を出し、この試練に打ち勝つことを心に誓った。だから彼は、朝目を覚ましたあと髭を剃り、朝食を食べ、すべての支度を整え、新聞を読んだ。ヨンミが病室へ入ってきた。一方の手に果物が入ったバスケットを、もう一方にスーツケースを持っている。彼女は思っていたより早い時間に現れた。ヒョンソクは時計を見て、なぜこんなに早いのか考えた。
「おはよう! 気分はどう?」
彼女は尋ねた。ヒョンソクはベッドから体を起こした。
「会えて嬉しいよ」
彼は言った。彼女は鞄を置いて、彼にほほ笑んだ。
「今朝はずいぶん具合がよさそう」彼も彼女にほほ笑んだ。
「うん、だいぶいいよ」首と腰を触りながら言った。