12 啓蒙
大学の授業も終わり、いつものアンティークな喫茶店『ヴェルレーヌ』にスグルとサヤカは今日も入っていった。ちなみに店の名前はフランスの詩人からきている。言うまでもないが、ドビュッシーなどもこの詩人から『月の光』などの着想を得ている。
スグルはコーヒーをゆっくり啜ろうとしていたが、サヤカは唐突な内容をわりとすんなり話しはじめた。
「お金持ちを探すより、根がいい人を探すほうが難しいよね」
スグルは少しコーヒーをこぼしかけるぐらいビックリしたが、何か啓蒙された感覚があるなかで、清々しく、応じていった。
「そうだね……。なんか、ぼくも気を付けようと、思ったよ」
「そう、そうやって他人事じゃなくて、自分事で捉えられる人が少ないのよ」
スグルはいきなり褒められたような気分になった。照れを隠そうとして、何事も無かったように、咳払いを軽くした。
「ねえ、スグル。今度、スグルのライヴを見に行きたいと思ってるんだけど、あえて聞きたいことがあるの」
うおぉおおーー!! と稲妻のようなものが内心では走り、轟きながらも、
「何?」
「スグルはなんで歌を歌っているの?」
サヤカの底知れぬパワーや真っ直ぐさに圧倒されそうになっているが、それでも、青年は一度コーヒーを口に含んだあと、飾らないで、誠実に答えようと思った。というか、もはやそれしか道は赦されていなかった。