三 いじめの本質

いじめの形にはいろいろなパターンがある。身体的な弱点を馬鹿にして攻撃するパターンは、障害者やブスやチビに対するいじめに多い。持ち物や服装に対して意地悪するいじめもある。言葉遣いや方言を馬鹿にして攻撃するいじめもある。その他に、内在的ないじめとして、無視、疎外、蔑視、軽蔑などの態度でいじめとなることも多い。

いじめとは、いじめられていると思う子がいじめっ子と感じる子との間に快い穏やかな心のつながりを作ることが出来ず、事あるごとに攻撃にさらされていると感じる状況である。同じようにいじめられている状況にあっても、それを苦痛と感じなければ被害になってはいかない。いじめられる子の感受性や心の強さによって何ともなかったり、大事になったりする。

小学生の頃は、いじめる子に二通りのパターンがある。一つ目のパターンは、勉強も出来てかわいらしく皆が友達になりたがるような女の子に対するいじめである。こういう子は、必ず仲良しグループの中の人気者として光っている。

しかし、仲良しグループに入れない子や、この子と仲良しになりたい、一緒に遊びたいと思っていても、実現できない男の子は、注目を引き付けたくてこの子をいじめる。意地悪をしようと思っているのではないのだが、しかし、この女の子からしてみると、いじめられていると感じる。でも、なぜいじめられるのかが分からない。

何も悪いことをしていないし、何も劣っていることはないからだ。仲良くしたいからとか、注目してほしいからとかでいじめるという心理は小学生には理解できないのだ。しかし、こういういじめもかなり多い。この場合は、心の底にはやさしさや思いやりが潜んでいるので、大人になるにつれて逆に変わっていくことになる。

二つ目のパターンは、自分より劣っていると思う子や弱い子をいじめるという場合である。

これは、自分の弱さを認めたくない、自分の不幸を直視したくない、自分のみじめさを忘れたい、そういう自己保身の心が潜んでいて、自分と同じようにみじめな子を見つけたい、哀れな子を作り出したい、自分だけが不幸なんじゃないと感じたい、そういう気持ちからいじめやすい対象をいじめるのである。

その心の奥底には、愛情に飢えた心ややさしさを求める心が隠されているのだが、しかし、こういういじめっ子がエスカレートしていくと、相手を攻撃したり、意地悪して相手を弱らせることに喜びを感じてしまうという心の退化を引き起こすことになる。これは避けなければならない。

中学生になっても、精神的に幼い男子生徒の中には、自分に注目してほしいという気持ちから、クラスで一番人気のある美少女にいたずらするものがいる。エリのクラスに相田美和ちゃんという美しくかわいい同級生がいた。

まだ成熟途中のすらりとした身体、大きな鳶色の眼、まっすぐ通って品の良い鼻、卵型で左右対称の小ぶりな顔、真っ白くて整っている歯並び、長く伸ばした黒髪、シミも黒子もない色白な肌、どこかのプロダクションがアイドルとしてスカウトに来そうな女生徒であった。

オスカープロモーションが開催している美少女コンテストに出場したら良いところまで行くのではないかと思われた。美和ちゃんは合唱部に入部していた。クラスの男子生徒は全員美和ちゃんにあこがれていたが、まだ遠巻きに見つめているだけだった。

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