自分史の「力強さ」
なるほど、こういう確認か、昨今の薬指のリングの有無は当てにならない。それならば逆に万里絵の方も聞きたい質問だった。
「釣木沢さんの水泳指導を受けたとしても、不愉快になるような人は思い当たりませんね。今のところ、わたしは独身ですので」
「そうですか」
「過去に一度の結婚歴はありますが」
言わなくても良かったかもしれないが、隠しておくこともないと思った。
「それは特に問題にはならないかと」
釣木沢はさらりとかわした。
「そうですね。釣木沢さんの方はどうですか?」
万里絵としても、聞いておくべきだ。
「わたしですか。この年になるまで、未婚です」
「この年になるまで?」
「ええ、三十二歳です」
「ワオ、釣木沢さん、年下だわ」
万里絵の感嘆に、釣木沢は品の良い笑いを浮かべた。
「そうでしたか」
「わたしの方が二歳うえ」
「全然、そうは見えませんよ」
釣木沢のおきまりのお世辞に万里絵は小気味よく笑った。笑い出したら、ツボにはまったみたいに止まらない。バツイチなことも年上なことも一気にぶちまけられて、爽快感すらあった。
「そんなにおかしかったですか」
笑い続ける万里絵を見て、釣木沢の顔は当惑していた。
「お昼はどうされていますか?」
水泳指導は一日中なのだろうか、予測がつかなくて水着に着替える前に聞いてみた。
「実は、わたしは泳ぐ前に近くのコンビニで調達していました」
「ああ、いいですね。わたしもサンドイッチでも買いたいかな。ご一緒していいですか?」