そこで、次に、身体にロープを巻き付けてそのロープを背中から引っ張ってもらっておいて、その状態で目隠しをして飛び台の所まで行き、そこで落下地点に向かって前傾した姿勢で立ち、そこで気絶したところでロープを放してもらえばそのまま前に倒れて落下していく、という方法を考えた。これならロープがあるので落ちる心配もないので、行けるのではないかと思ったのである。
しかし、これは、そもそも目隠しをしてジャンプ台に向かうということ自体、いつ落ちるのか分からない状態で一歩一歩踏み出して行くので、緊張が続くことになり、もう目隠し状態だけで十分に恐怖であり、平気で落ちる台に向かって歩いて行けるはずもない。
また、死刑台のように、立っている足下の床が勝手に開くという方法もあると思った。しかし、これは、いつ落ちるのか分からないという恐怖を抱いたまま、時間が経過することになりこの間の恐怖がものすごい上、その挙げ句、突然にその恐怖の瞬間がやってくるので、恐怖+恐怖+……と恐怖の三乗以上の怖さとなり、心停止、ショック死すら起こりえるものである。だから死刑台なのかと妙に納得し、そして、それではとても耐えられそうにないと、神谷は思った。
ただ、身体をロープで引っ張ってもらうのは、それ自体は安全、安心なのであり、それを放すタイミングさえ自分で指示できれば、いつ落ちるかという恐怖もないし、自分が指示しない限りは絶対に落ちないという安心感がある。その上で、そのロープが放される瞬間、気を失っていれば、恐怖を感じなくて済む。これだこれだ、もうこれしかないと思った。
そこで神谷は早速やってみた。身体がロープで結ばれていて、そのロープの端を友人が持っているので、とりあえずは落ちないという安心感はある。そして、落ちる瞬間は気絶している以上、恐怖など全く分からないので、これで大丈夫、飛べると確信した。
そして、神谷は、実際に落下地点のぎりぎりのポイントに立ち、少し前傾した体勢を保った。この時の神谷は、ロープの圧力を腹に感じて、これによる落ちない安心感から威風堂々と胸を張り、もうヒーローになった気になっていた。そして余裕の表情で、ロープを握った仲間に、放せの合図として「ゴー」と叫びながら、気を失った。