虹色の風の時代
その日も四人で真美の下宿にいた。木々が秋の装いを始めている。
「たまには四人で呑もうよ」
そう言いだしたのは真美だ。丸い小さなテーブルを囲んで、会話は弾んだ。私はもっぱら話を聞く係だ。聞くだけでも楽しくて、自然と笑顔になる。時間は瞬く間に過ぎた。
「しりとりやろうよ~」
「え~。マジ? しりとりらんて、中学生以来らよ」
そう言いながらも柊は乗り気だ。すでに顔は赤く、ろれつが回っていない。
「じゃあ、私からね」
柿ピーを口に放り込みながら真美は、
「柿ピー」
「えっ? ピ? イ?」
「イでしょう?」
「イカリング」
「えっ? グ? クでもいい?」
「だめ。グ」
「う~ん。偶数」
「牛」私の番だ。お酒が回っている。「し」で始まる単語が出てこない。そのときづいた。いつの間にか、純一の手が私の手に触れている。わざとなのか、偶然なのかわからないくらい微妙な触れ具合。一度意識し始めると、触れている部分が熱を帯びているように感じる。「し」のつく言葉を考えなきゃ。だけど、単語は私の頭の中をぐるぐる回っている。顔が熱い。
「ふみ。ふみの番だよ」
真美の声で我に返った。テーブルの下だから、私の動揺の理由に気づかれていないはずだ。
「えっと。し、し、新歓コンパ」
「なに、それ?」
あははと真美は声を立てて笑った。
「ふみ、顔が真っ赤だぞ。酔っぱらい」
柊がからかう。
「えへへ。柊だって。えへへ」
笑って純一の顔をそおっと見た。優しく微笑んでいる。手は触れたままであった。
「送っていくよ」
純一が声をかけてきた。
「そうだね。ふみ、酔っているから、駅まで送ってあげてよ」
お姉さんらしく、真美が言う。
「おう。ちょっと行ってくるわ」
他のメンバーは下宿だから、時間をまったく気にしなくてもよかった。こういうときは自分だけ自宅通学であることが恨めしくなる。泊まりたいなあ。しかし、母親の顔が浮かぶ。昨夜は真美の家に泊まっているから、さすがに連泊はまずい。終電が迫っていた。
「ごめんね」
そう言いながら、顔はにやけた。純一に送ってもらえるのは嬉しかった。