一陣の風
緋色の風の時代
「ねえ。ふみは好きな人はいないの?」
いつものように真美の下宿でごろごろしていると、真美が唐突に問いかけてきた。真美の愛猫のルンがお腹に乗ってくる。あの日から私は、真美の下宿でだらだらと過ごすことが増えていた。ときには泊まることもある。
「えっ? なにそれ? 突然だね」
ルンを払いのけるように起き上がって答えた。
「ほら、うちら、あのときからずっと四人で過ごすことが多いじゃん。ふみはあの二人のことをどう思っているの?」
純一とのあのプラットホームでの出来事は真美には話していなかった。私にとって、なんとなく宝物のような時間となっていた。純一も話さないでいてくれる。それが、二人だけの秘密のようで嬉しかった。
四人で過ごすようになり、純一とも話ができるようになっていた。しっかり者の真美と純一は私の世話役的な存在だった。世間知らずな私に新しい世界を教えようと、二人は常に話題を提供した。私の驚く顔や反応も面白いらしく、二人は楽しんでいるようだったし、私も居心地よかった。
「二人だったら、純一かな。お兄ちゃんみたい」
「そうだと思った。よし、私協力するね」
「え~。いいよお。この関係崩したくないもん」
それは、本音だった。純一のことは気になっている。特別な存在と言っていい。しかし、私にとって、男の子と友達でいられることは、人生初のことだし、今の四人で仲良くいられるのは、お互いに恋愛関係にならないからだ。
入学して間もなく半年が過ぎようとしている。その間に四人で多くの時間を費やしてきた。夏には泊りで海にも行った。秋の遠足と称して奈良に行く予定を立てている。何より、四人と過ごすことで、私のコミュニケーション能力がずいぶん上がった。四人以外の友達もでき始めている。こんなに充実した日々がかつてあっただろうか。
「そうだね。四人のこの関係は崩したくないよね」
真美はこうつぶやいた。
「そうだよ」
私は真美の家の冷蔵庫を開け、勝手に入っていたガリガリアイスバーを食べた。心の奥に少し濁った感情を感じながら。