西洋小舍の佛壇
サマリー
長い船旅を終え、西海岸に到着して約1か月が経とうとしていたらしい。慣れない異国の生活に、かなりストレスを感じていた様子がうかがえる。
足はいつしか船旅で親しくなった開教師が在住している東本願寺の米国出張所へと向かっていた。ここは日本人の多くの移民に仏教を布教することが目的とされていた。たまたまその開教師に会いに行った折、「私はこれから日本人の移民が住む田舎に布教に行かなければならない。貴方(与作)もよければ一緒に行きませんか」と誘われた与作。二つ返事で同行した。
一行は大きい赤い水車のついた白塗りの大きなボートに乗せられて2時間余り、対岸のある小さな僻村に到着。「泰西名画で見る、西洋の田舎そのまま」の風景が眼前に広がっている。
与作は美しい村の景色に心洗われていく自分に気がついていた。ここから徒歩で4里ほどのところに、日本人の村があるという。幾万株の葡萄の木が植えられた幾千エーカーと続く路をのんびりと歩くにつれて、田舎育ちの与作は身も心もすっかり癒されていったようだ。
4時間ほど開教師と歩き、日本人の移民が住む田舎の近くまでたどり着く。辺りが開け三角屋根の煉瓦造りの小舎が点在している。日本人移民として最初に来た老夫婦の家に招かれ、食事を共にした。