「今日もおばあちゃんと来てる……」
ポツリと呟いた圭太に、友人の一人が「え?」と聞き返した。
「ほら、あれ」と圭太が咲希とその隣にいる祖母を指さす。
「参観日の日も、真島のとこはおばあちゃんが来てたよね」友人達は首を傾げた。
「そうだっけ? よく覚えてるね」圭太は、なぜか慌てた顔をした。
「クラスの中でおばあちゃんが来てたの、真島のとこだけだったから、記憶に残ってたんだ」
友人達は、どうでもよさそうに、ふーん、と言った。それから、友人の一人が、あ、と声を出す。
「そう言えば、うちの母ちゃんが、真島のとこの母ちゃんはいつも忙しそうにしてて、全然保護者会に出てこないし、夏祭りとかのイベントも全然手伝ってくれないって怒ってたな。母子家庭だから、真島の母ちゃん、大変なんだって」
圭太は驚いた顔をした。
「知らなかった。なんでお父さんがいないんだろう? 離婚したのかな、それとも亡くなったのかな……」
友人は、さも興味なさげに、「そんなの知らねー」と言った。
「けど、真島の母ちゃんの仕事なら知ってる。看護師してるんだって。一人で家のことを全部やってる上に、夜勤があったり急患で残業があったり、とにかく忙しいんだって。だから、保護者会の仕事どころじゃないんだって」
そうだったのか。母子家庭である上に、母が夜勤のある仕事をしているのなら、咲希は家の中でも寂しい思いをしているのかもしれない。
圭太は、金魚すくいの屋台のそばにいる咲希を眺めた。立ち止まって、水槽の中の金魚達をじっと見つめている。祖母が、咲希の顔をのぞき込んで、何か話しかけている。声は聞こえないが、どうやら、やりたいの? と聞いているようだった。
咲希は首を横に振ったが、祖母は屋台の人にお金を払ってしまった。薄い紙の貼られたポイを受け取り、咲希は水槽のそばにしゃがんだ。浴裾が運動場のほこりっぽい地面についてしまわないように、軽く裾に手を添えてしゃがんでいた。圭太は、咲希のその女性らしい仕草に、不意打ちされたようにドキリとした。
咲希は痩せていた。しかし、ギスギスと骨ばってはおらず、圭太にはない柔らかな線を体に帯びていた。咲希も圭太と同じで、成長が早い方だったので、彼女の体は子どもの体形というよりは青年期の体形に近づき始めていた。柔らかな浴衣の布ごしに、咲希の体の輪郭が浮かび上がって見えた。
咲希は今、水で袖を濡らさないように、片袖に手を添えた。袖口から、白くてほっそりとした手首がのぞいた。圭太は、それに目を奪われた。