「もう行かなくちゃ」

彼女は手を離したくなかった。

「ほんとうにもう行かないと」

ようやくそう言い、彼女は彼に背を向け、自分の家の方角へ向かってゆっくりと歩きだした。ヒョンソクもヨンミと同じ気持ちだった。彼女を行かせたくなくて話を続けた。

「ヨンミ、これを僕に渡すためだけに来てくれたの? これだけのためにわざわざ?」

ヨンミは振り返り、恥ずかしそうに彼を見た。

「違う、そのためだけじゃないわ。ずいぶん長く会っていなかったから、あなたに会いたかったの」

二人の間に長い沈黙があった。彼女は躊躇いながら口を開いた。

「でも、ほんとうにもう帰らないと」

彼女は再び遠ざかっていった。ヒョンソクは、今日の彼女はより一層愛らしく見えると思った。彼はいつも、自分は冷水に足が浸かっているかのような辛い人生を歩んでいるのだと感じていた。しかしヨンミが現れたことで、彼の人生は新たにリセットされた。

ヨンミはいつも、ヒョンソクの苦しい日々の中で安息所になってくれた。今日、彼女がこんなにたくさんのプレゼント―アルバム三枚、楽譜、コーヒー、それにチケットを持ってきてくれて、彼はとてもありがたかった。しかし、どんな贈りものにも代えがたいことがあった。

それは、彼女が言ったこと―“ずいぶん長く会っていなかったから、あなたに会いたかった”という言葉だ。彼は彼女と会って以来、そんなことを言われたのは初めてだった。彼は、彼女に何かを贈りたい思いに駆られた。とても大切なものを彼女にあげたかった。ヒョンソクは急いで彼女の背中に呼びかけた。

「ヨンミ、待って、今夜もう少し帰るのが遅くなっても平気かな」

彼女は彼の言葉を聞き終わる前に答えた。

「ええ、平気よ!」

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